一般気象 vs 航空気象

「今日の天気は?」と聞かれたら、多くの人は「晴れ」「曇り」「雨」くらいの解像度で答えると思います。
傘がいるかどうか、それくらいの情報で十分ですよね。

晴れの日と雨の日

でも航空の世界に入ると、「晴れ」という言葉だけでは圧倒的に情報が足りないのです。
何が違うのか、2つの視点から見てみましょう。

見ている高度

一般的な天気予報は、基本的に地表が基準です。今日の気温、傘の要不要など、これらはすべて地表付近の話です。

一方で航空機は、地表から数千フィート、ときには数万フィートを移動します。地上が穏やかでも、3,000フィート上空では風向きが全く違っていたり、雲の層が重なっていたり。
地上が晴れていても、上空では全く異なった状況になっていることも珍しくありません。

高度ごとの違い

知りたい情報の粒度

もう一つの違いは、情報の粒度です。

一般の天気予報なら「晴れ時々曇り」で十分ですが、パイロットが知りたいのはもっと具体的な数値です。

  • 風向風速
  • 視程
  • 雲底高度

これらは具体的な数値として求められます。

同じ「晴れ」でも、パイロットにとっては「風向240度、風速15ノット、視程10キロメートル以上、雲底5,000フィート」というように、求める解像度がまるで違うわけです。

フライト中の気象情報の利用

「天気が悪そうだから今日はやめておこう」そんな感覚的な判断で済むなら話は早いのですが、航空の世界ではそうはいきません。

例えば有視界飛行方式(VFR)で飛ぶ場合、前回の記事で言及したように雲からどれだけの距離を取らなければならないか、どれだけの視程が必要かは法律で具体的に定められています。機体側にも、離着陸時の横風制限などが明記されています。

つまり航空気象とは、なんとなくの感覚で判断するものではなく、具体的な数値と照らし合わせて判断するものなんです。

フライト中の気象情報の利用

では実際に、フライト中のどの場面で気象情報を使うのでしょうか。大きく2つの場面に分けてみましょう。

出発前:そもそも飛べるか

フライトの計画を立てる段階で、まず気象を確認します。
出発地・目的地・経路上の天候はどうか、法律や機体の制限値と照らし合わせて問題ないか。
ルート変更、フライトの遅延・欠航を判断します。

飛行中:急変への対応、そして進入の可否

飛行中も気象は判断材料であり続けます。
予報通りに進まないこともありますし、急な天候の変化に遭遇することもあります。そうした場面では、引き返すか、別の空港に向かうか、高度を変えるのか...気象状況をもとにその場で判断を下すことになります。

そしてフライトの最終局面、目的地空港への進入(アプローチ)でも気象は欠かせません。目的地に近づいたら無条件に降りていけるわけではなく「進入を開始しても良い最低気象条件」という基準が航空法で明確に定められています。
視程や雲底高度がその基準を下回っていれば、進入をあきらめて代替空港に向かう。という判断になるわけです。

気象情報はどこから得るのか

ここまで、航空気象が「高度ごとの状態」や「具体的な数値」を求めるものだという話をしてきました。
では実際にパイロットは、そうした情報をどこから手に入れているのでしょうか。

空港ピンポイントの情報:METAR と TAF

特定の空港を中心とした半径9kmほどの範囲を対象にした情報があります。
その時点での実況を伝えるのがMETAR
これから数十時間先の予報を伝えるのがTAFです。
風向風速、雲の状態などが、決まった形式の数字とアルファベットで表されます。一見すると暗号のような見た目をしていますが、慣れれば必要な情報を素早く読み取れるようになります。

METARの読み方については、また別の記事で詳しく解説します。

飛行中のリアルタイム情報:ATIS

METARとTAF が地上での計画段階でつかう情報だとすると、フライト中、特に出発直前や空港に近づいたタイミングで機内で取得するのがATISです。
音声、あるいは文字情報として提供され、気象データだけでなく、使用滑走路や進入方式といった空港の運用情報も含まれています。

進入(アプローチ)をする際には、このATISを必ず取得しなければなりません。
そして取得しただけでは終わらず「最新のATIS情報を取得した」ということ自体を管制に通報する必要があります。

ただ取得するだけでなく、それが最新の情報であることを第三者と確認する。
この確認作業が航空業界らしいと言えるところかもしれません。

高度ごとの広域情報:高層天気図

空港単位の情報だけでなく、ある程度の高度ごとに、広いエリアの気象状況を俯瞰する情報もあります。
それが高層天気図です。日本近海からアジア規模まで見渡せるもので、上空の風向風速や気温などを面で捉えることができます。

ただし、数万フィートという高度を飛ぶような飛行機向けの天気図もあり、訓練飛行のような比較的低高度を飛ぶ場面では、使う頻度の高い天気図とそうでないものがあります。

航空路断面図

その他の悪天情報

着氷、乱気流、火山灰といった、安全に重大な影響を与えうる悪天が予想されている場合に発表される情報もあります。

  • 広域を対象にしたSIGMET
  • 低高度の悪天をまとめた下層悪天予想図
  • 国内の悪天をエリアごとに示す国内悪天予想図

など、いくつかの種類があります。
経路上にこうした情報が無いか確認することも、フライトプランニングの一部です。

情報の広さの違い

情報をまとめて見るには

ここまで紹介したように、航空気象情報は種類もスケールも様々です。
エアラインと訓練ではよく使う天気図も異なってきます。このサイトでは、訓練生がよく使う天気図を一覧できるツールも公開しています。必要な時に合わせてチェックしてみてください。

まとめ

ここまでみてきたように、航空気象は一般的な天気予報とは視点が全く異なります。
地表だけでなく高度ごとの状態を捉え、具体的な数値で判断する。そして情報源も、空港ピンポイントのものから広域を俯瞰するものまで、目的に応じて使い分ける必要があります。

天気は、地上から高層までたくさんの要素が連動しながら形作られています。
数値をただ眺めるだけでなく、どこが変わるとどこに影響が及ぶのか。という繋がりを読み解けるようになると、見える景色がぐっと変わってきます。
単なる暗記ではなく、なぜこの天気になっているのかを分析できる力を身に着けていきましょう。
(私もまだまだ勉強中です。)

気象カテゴリでは、METARをはじめとした気象情報の数値の読み取りに加え、それらの原因まで詳し掘り下げていく予定です。