はじめに

法規カテゴリへようこそ。
このカテゴリでは、訓練入門シリーズとは異なり、本格的な訓練中や試験前の方を対象に、条文もしっかり確認しながら踏み込んだ内容を扱っていきます。

「なぜそのルールがあるのか」「実際の運航ではどう機能しているのか」を一緒に考えていくことを目指しています。
専門書への橋渡しとして使ってもらえたら嬉しいです。

さて、第一回のテーマはVFRとIFR。
「VFRは晴れの日に飛ぶルール、IFRは天気が悪い日のルール」——そういう理解をしている人は少なくないと思います。間違いではないですが、正確でもありません。

VFRとIFRは気象条件の分類ではなく、飛行方式の分類です。この違いをきちんと整理しておくことが、航空法の多くの条文を読み解く上での土台になります。

飛行方式(Flight Rules)とは

VFRとIFRを理解する上でまず押さえておきたいのが、「飛行方式(Flight Rules)」という言葉の意味です。
飛行方式とは、どのような規則のもとで飛行を行うかという区分です。
天気がいいか悪いかという気象条件の分類ではありません。この点が混乱の元になりやすいので、最初にはっきりさせておきます。

  • 有視界飛行方式(Visual Flight Rules / VFR)
  • 計器飛行方式(Instrument Flight Rules / IFR)
    ——この2つが飛行方式の区分で、その定義は航空法第2条に置かれています。
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第2条第17項(計器飛行方式)

この法律において「計器飛行方式」とは、次に掲げる飛行の方式をいう。

一 第13項の国土交通大臣が指定する空港等からの離陸及びこれに引き続く上昇飛行又は同項の国土交通大臣が指定する空港等への着陸及びそのための降下飛行を、航空交通管制圏又は航空交通管制区において、国土交通大臣が定める経路又は第96条第1項の規定により国土交通大臣が与える指示による経路により、かつ、その他の飛行の方法について同項の規定により国土交通大臣が与える指示に常時従つて行う飛行の方式

二 第14項の国土交通大臣が指定する空港等からの離陸及びこれに引き続く上昇飛行又は同項の国土交通大臣が指定する空港等への着陸及びそのための降下飛行を、航空交通情報圏(航空交通管制区である部分を除く。)において、国土交通大臣が定める経路により、かつ、第96条の2第1項の規定により国土交通大臣が提供する情報を常時聴取して行う飛行の方式

最初は何を言ってるか全くわからないかもしれませんが、最終的には暗記できるくらい読み込むことになります

一方、VFRは「計器飛行方式以外の飛行の方式」と定義されています(航空法施行規則第5条)。
IFRを先に定義して、それ以外をVFRとする——という構造になっています。

つまり、すべてのフライトはVFRかIFRのどちらかに分類されます。

どちらの方式で飛ぶかによって、トラフィックセパレーション(ほかの飛行機との間隔)の管理体制が変わります。
VFRでは自らの判断で間隔を保つ必要があり、IFRでは管制機関がそれを担います。
ただし、飛行方式にかかわらず、機外の物件を視認できる気象状態にある場合、他の航空機や物件と衝突しないように見張りをする義務はパイロットにあります(法第71条の2)。

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航空法第71条の2
航空機の操縦を行なつている者(航空機の操縦の練習をし又は計器飛行等の練習をするためその操縦を行なつている場合で、その練習を監督する者が同乗しているときは、その者)は、航空機の航行中は、第96条第1項の規定による国土交通大臣の指示に従つている航行であるとないとにかかわらず、当該航空機外の物件を視認できない気象状態の下にある場合を除き、他の航空機その他の物件と衝突しないように見張りをしなければならない。

見張り義務については別の記事で詳しく扱いますが、「IFRだから管制に任せておけばいい」という理解は誤りなので注意してください。

有視界飛行方式(VFR)

VMCの基準

VFRで飛ぶためにはVMC(Visual Meteorological Conditions / 有視界気象状態)を維持しなければなりません。
VMCは飛行方式の名前ではなく、気象状態そのものを指す言葉です。

VFR(方式)を維持するためには VMC(気象状態)の基準を満たし続ける必要がある。
ーーこの関係を最初に整理しておきます。

そのVMCの基準は空域によって異なり、日本の航空法ではおおむね以下のように定められています。

空域 飛行視程 雲からの距離(上方) 雲からの距離(下方) 雲からの距離(水平)
3,000m 以上の高度 8,000m 300m 300m 1500m
管制区/管制圏/情報圏内 5,000m 150m 300m 600m
管制区/管制圏/情報圏外 1,500m 150m 300m 600m
管制区/管制圏/情報圏外で300m以下の高度 1500m 雲から離れて飛行 雲から離れて飛行

IMCの図

VFRで飛ぶパイロットには、この基準を自ら確認・維持する責任があります。
管制官が「VMCを維持できているか」を監視してくれるわけではありません。

VMCを維持することの難しさ

晴れの日の空を想像してみてください。雲が多少あっても、ある程度の青空が見えていたら「晴れ」という表現がされると思います。
しかしVFRで飛びたいパイロットにとって、それは晴れではないかもしれません。
飛行ルート上にぽつんと雲が一つあるだけでVMCは保てなくなります。その雲を避けなければならないわけですが、セスナのような小型機であっても時速200km前後で飛行しています。
左右に避けるにしてもそれなりの距離が必要ですし、上下に避けるのであればさらに余裕が必要です。

青空の写真

地上から見ていると「あの雲を避ければいいだけ」に見えても、実際に飛びながらリアルタイムで判断・回避するのは別の話です。

「VFR=自由に飛べる方式」というイメージを持っている人は多いですが、実態はむしろ逆で、気象状態の監視も回避の判断もすべてパイロットの責任になります。
管制による外部からの監視はなく、VMCを維持できなくなった瞬間にVFRでの飛行はできなくなります。
雲との距離が取れなくなってしまう前にIFRの許可をもらって飛行方式を切り替えなければ 航空法違反です。

計器飛行方式(IFR)

IFRと空域

IFRとは、管制機関の指示に常時従って飛行する方式です。
ただし「常時従う」の中身は、飛行する空域によって少し異なります。ここで空域の概念を簡単に整理しておきます。

日本の航空法では、地表又は水面から200m以上の空域のうち、国土交通大臣が告示で指定するものを「管制区」といいます。
また、空港等とその周辺には、離着陸の頻度や管制業務の形態に応じて「管制圏」または「情報圏」が設定されます。

管制区では管制官が経路や飛行方法について指示を出し、管制圏・情報圏では離着陸に関わる指示や情報が提供されます。
空域の詳細については別の記事で扱いますが、IFRを理解する上ではまずこの区別を頭に入れておいてください。 一言で言えば、IFRとは管制官が定める経路と指示に従って飛ぶ方式です。
空域によって細かい定義は異なりますが、試験では条文をそのまま答えられる必要があります。

見張り義務はパイロットにある

管制機関はトラフィックセパレーション(ほかの飛行機との間隔)の維持を担いますが、その責任の主体はあくまでパイロットです。

法第71条の2が定める見張り義務
——機外の物件を視認できる気象状態にある場合、他の航空機や物件と衝突しないように見張りをする義務——
これはIFRで飛行中であっても免除されません。管制官の指示に従いながらも、外部を視認できる状況では自らの目で安全を確認する責任がパイロットには常にあります。

VFRと並べたとき、IFRの飛行環境はかなり性格が異なります。
VFRではルートの選択も気象の判断もすべてパイロットが自律的に行う必要がありますが、IFRでは管制官から経路と指示が与えられるため、パイロットは操縦と安全確認により集中できます。
もちろんIFRには高度な技量と判断力が求められますし、管制官の指示に対して即座に正確に対応する能力も必要です。
それでも、「次に何をすべきか」という枠組みが外から与えられるという意味では、VFRよりも飛びやすいと感じるパイロットは少なくありません。
かくいう私も、VFRよりIFRで飛ぶ方が断然好きです笑

IFRはIMCのためだけじゃない

ここが「VFRとIFRは天気で決まる」という誤解を解く上で、一番大事なポイントです。

そもそも飛行方式はVFRかIFRの2択です。第3の方式はありません。
この前提を踏まえた上で、それぞれの制限を考えてみます。

VFRには「VMCを維持できること」という気象条件の制限があります。
セクション3で見たように、飛行視程や雲からの距離が基準を下回った瞬間にVFRでの飛行は継続できなくなります。
つまり、IMC下では原則としてVFRで飛行することはできません。

では、IFRにはどのような制限があるでしょうか。
IFRは「管制機関の指示に常時従って飛行する方式」であり、気象状態そのものに対する制限はありません。
晴れていようが雲の中であろうが、管制官の指示に従って飛行できる環境さえあればIFRは成立します。
つまり、VMCであってもIFRで飛行することは何ら問題ありません。

この非対称性を表にまとめるとこうなります。

気象状態 VFR IFR
VMC下 飛行できる 飛行できる
IMC下 原則飛行できない 飛行できる

VMCの中でもIFRで飛行できるという具体例として、エアラインの運航がわかりやすいです。

快晴の日に羽田を離発着する旅客機も、基本的にはIFRで飛んでいます。
技術的にはVFRで飛行できる気象条件であっても、IFRの方が管制による優先権が与えられやすく、定時運航の面でも有利なため、IFRで飛行するのが基本となっています(ただしこの点は運航会社の方針や空域によっても異なります)。

「天気が良ければVFR、悪ければIFR」という理解は、結果として一致することもありますが、本質的には正しくありません。
フライトレーダーの画像
天気は良いですが、ここに表示されている飛行機はみんなIFRで飛んでいます。

VFRとIFRはあくまで飛行方式の区分であり、気象条件はその選択に影響を与えることはあっても、方式そのものを定義するものではない
——ここを押さえておくことが、この先の法規を読み解く上での土台になります。

なお、IMC下でもVFRに準じた方式で飛行できる例外としてSVFR(特別有視界飛行方式)があります。これについては別の記事で詳しく扱います。

計器飛行・計器航法との混同に注意

ここで一度、混同しやすい用語を整理しておきます。

「計器飛行方式(IFR)」と似た言葉に、「計器飛行」「計器航法による飛行」があります。
名前は似ていますが、これらはまったく異なる概念です。

航空法第2条では、それぞれ以下のように定義されています。

📝

第2条第16項(計器飛行)
この法律において「計器飛行」とは、航空機の姿勢、高度、位置及び針路の測定を計器にのみ依存して行う飛行をいう。

第34条第1項第2号(計器航法による飛行)
計器飛行以外の航空機の位置及び針路の測定を計器にのみ依存して行う飛行
*計器飛行証明についての記述の中で定義されています。

「計器飛行」は、姿勢・高度・位置・針路のすべてを計器に依存して飛ぶ行為そのものを指します。
雲の中など機外がまったく見えない状況がその典型です。
雲中飛行をする飛行機

一方「計器航法による飛行」は、位置と針路の測定のみを計器に依存する、より限定的な概念です。
雲上飛行などがその例で、姿勢や高度は外の景色から判断できるものの、地表物標が見えず位置と針路だけが計器頼りになる状況を指します。
雲上飛行をする飛行機

用語 定義の核心 何の話か
計器飛行 姿勢・高度・位置・針路 のすべてを計器に依存 操縦・航法行為
計器航法による飛行 位置・針路 のみ計器に依存 操縦・航法行為
計器飛行方式(IFR) 管制官の指示に常時従う 飛行方式(別次元の話)

名前の似ている計器飛行計器飛行方式は、まったく別のことを指しています。
IFRで飛行していても計器飛行を行っていない場面はありますし、試験でもよく問われる区別なので、しっかり押さえておきましょう。

まとめ

この記事で整理した内容を振り返ります。

  • 飛行方式とはどのような規則のもとで飛行を行うかという区分であり、VFRとIFRの2つがある
  • VFRはIMC下では原則飛行できないが、IFRには気象条件による制限がない
  • よってIMC下では原則IFRでしか飛行できない一方、VMC下ではVFR・IFRどちらでも飛行できる
  • 見張り義務は飛行方式にかかわらず、視認できる状況下ではパイロットに課される
  • 「計器飛行」「計器航法」と「計器飛行方式(IFR)」は名前が似ているだけでまったく別の概念

「VFRは晴れ、IFRは雨」という理解は結果として一致することもありますが、本質的には正しくありません
飛行方式は気象条件とは独立した概念であり、この理解が航空法規を読み解く上での土台になります。