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空を飛ぶとき、パイロットは何を見ているのでしょうか。

窓の外——というのが直感的な答えかもしれませんが、それだけでは飛べません。
もちろん外の景色をしっかりと観察し、周囲に障害物や他の航空機がないか目視で確認する必要はあるのですが、視覚情報だけに頼っていては対処できない場面があります。雲の中に入れば外は真っ白になりますし、夜間飛行では地平線すら見えなくなります。そして意外と知られていないのが、人間の身体感覚は空中では信頼できない、という事実です。

旋回しているのに水平飛行をしていると感じたり、降下しているのに加速しているように錯覚したり——そうした「感覚のズレ」が飛行中に起きます。これは前庭系(内耳)が、直線加速度と重力加速度を区別できないために生じる生理的な現象で、訓練を積んだパイロットであっても例外ではありません。
これを空間識失調と呼びます。詳しい内容は別の記事で取り上げます。

だからパイロットは計器を見て飛びます。計器は感覚の代わりに、機体の状態を数字と指針で教えてくれます。
この記事では、コックピットにどんな計器が並んでいて、それぞれが何のためにあるのかを、大きな視点から整理していきます。

コックピットとは何か

コックピット(cockpit)は、パイロットが機体を操縦するための区画です。小型機では1〜2席、旅客機では機長と副操縦士の2名が並んで座る形が一般的です。昔の旅客機はさらに航空機関士(Flight Engineer)と呼ばれる人が後ろに座っており、エンジン計器などのチェックを行っていました。技術の進歩により、現在は2名での操縦が可能となっています。

コックピットの画像

目に入るのは、計器・スイッチ・レバー・ディスプレイの集合体です。初めて見ると圧倒されますが、これらはすべて「飛行に必要な情報を取得する」か「機体のシステムを操作する」かのどちらかに分類できます。

飛行に必要な情報とは、大きく3つです。

  • どこにいるか(位置・高度)
  • どんな姿勢か(ピッチ・バンク・ヨー)
  • どれくらいの速さで飛んでいるか(対気速度・昇降率)

これらを示すのが「計器」です。エンジンの状態や燃料残量なども計器で確認しますが、飛行の基本は上の3点を把握し続けることにあります。

計器の分類

コックピットに並ぶ計器は、作動原理によっていくつかのグループに分けられます。ここでは代表的な4つを紹介します。

ピトー静圧系統

機体の前方に取り付けられたピトー管(pitot tube)と、機体側面の静圧孔(static port)から得られる気圧情報をもとに動く計器群です。

  • 対気速度計(Airspeed Indicator / ASI)
  • 高度計(Altimeter)
  • 昇降計(Vertical Speed Indicator / VSI)

ピトー管と静圧孔から2種類の気圧情報を取得し、その差や変化率をもとに各計器が値を表示します。

ジャイロ系統

回転するジャイロスコープの性質を利用した計器群です。

  • 姿勢指示器(Attitude Indicator / AI)
  • 方向指示計(Directional Indicator / DI、またはHSI)
  • 旋回計(Turn Coordinator)

ジャイロスコープは一度回転させると姿勢を維持しようとする性質があり、その動きの変化から機体の姿勢や方位を検出します。

磁気コンパス

電源不要で作動する唯一の方位計器です。ただし旋回中や加減速中は誤差が生じるため、通常は方向指示計(DI)と組み合わせて使います。電気系統が失陥した場合のバックアップとして重要な役割を果たします。

エンジン計器

エンジンの状態を監視する計器群です。機種によって異なりますが、代表的なものを挙げます。

  • 回転計(Tachometer)
  • 油温計・油圧計
  • 燃料計(Fuel Gauge)

エンジンの回転数・油温・油圧・燃料残量などを常時監視し、異常の早期発見に使います。

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計器を作動原理ごとに分ける理由
作動原理ごとに分けるのはとても重要で、これを理解することでどの計器が壊れたらこの計器にも影響が出る可能性がある、ということがすぐに分かるようになるからです。
例えば、対気速度計が壊れた場合、同じピトー静圧系統である高度計の値も正確ではない可能性をすぐに疑うことができます。そして、逆に姿勢指示器などのジャイロ系統、磁気コンパスには影響がある可能性は低いと分かります。
これは緊急時の対応でとても重要になってきます。

Basic T(T字配列)

飛行計器の中でも特に重要な4つ——姿勢指示器・高度計・対気速度計・方向指示計——は、コックピットの中央に決まった配置で並んでいます。これをBasic T(T字配列)と呼びます。

Basic Tの画像

姿勢指示器を中心に、左に対気速度計、右に高度計、下に方向指示計——この配置はT字に見えることからその名がついています。

なぜこの並びなのか。理由はシンプルで、パイロットの視線動線を最短にするためです。飛行中は常に姿勢指示器を中心に視線を置き、必要に応じて左右・下へ視線を移して情報を確認します。どの計器も視線移動が最小限で済むよう、この配置が標準化されました。

少し専門的な話をすると、操縦の上手いパイロットはこの視線移動——スキャン(scan)——が非常に上手です。他の計器を確認するために視線を動かしたら、必ず姿勢指示器に視線を戻す。
高度を見たら姿勢指示器へ、速度を見たら姿勢指示器へ。このリズムが体に染み付いているパイロットほど、安定した飛行ができます。

現在、この配置はほぼすべての航空機で共通しており、機種が変わっても同じ感覚で計器を参照できます。

アナログ計器とGlass Cockpit

これまで紹介してきた計器は、もともとすべてアナログ式——針が動いて値を示すタイプ——でした。
現在でも訓練用の小型機はアナログ計器を採用しているものもあり、Basic Tの配置でコックピットに並んでいます。
*ちなみに、アナログ計器のことを「丸形計器」と呼ぶこともあります。

一方、近年の航空機ではGlass Cockpitと呼ばれる形式が普及しています。アナログの計器盤の代わりに液晶ディスプレイを搭載し、飛行情報を統合して表示する方式です。小型機ではGarmin社のG1000が代表的で、左側のPFD(Primary Flight Display)に姿勢・速度・高度・方位をまとめて表示し、右側のMFD(Multi-Function Display)に地図や航法情報を表示します。

G1000

ひとつ面白い話をすると、小型機のグラスコックピットで採用されるG1000のPFDと、旅客機のPFDではバンク角の表現が逆になっています。どちらが正しいというわけではなく、設計思想の違いによるものです。気になる方は調べてみてください。

2種類の姿勢指示器

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逆になっているようには見えないという方へ
一見同じような表示のように見えますが、飛行機を傾けるときにはバンク角という角度を基準にどれくらいまで傾けるかを見ています。上の画像で言うと計器上側の上下に並んだ三角のずれを見ます。
左側は24°、右側は20°くらいのバンクを取っています。そこに注目すると、三角の左右の位置関係が2つの計器で逆であることが分かると思います。(どちらも左にバンクを取っています。)
小型機で訓練をした後、大型機の訓練に移った際に多くの訓練生がこの表示の違いで少しだけ混乱することになります笑

まとめ

この記事では、コックピットに並ぶ計器の全体像を整理しました。

  • パイロットは身体感覚ではなく計器をもとに飛行する
  • 計器はピトー静圧系統・ジャイロ系統・磁気コンパス・エンジン計器の4グループに分けられる
  • 主要4計器はBasic Tの配置で標準化されている
  • 近年はGlass Cockpitが普及し、情報が統合表示されるようになった

以前の記事「システム概論」で、航空機には油圧・電気・空調など様々なシステムが搭載されていることを紹介しました。
それらのシステムは独立して動いているように見えて、最終的にはすべてコックピットに情報を集約するように設計されています。

各システムが何をどうやってコックピットに伝えているのか——その仕組みまで理解できると、航空機全体の設計思想がぐっと見えてきます。ちなみにそれをパイロットの何倍も深いレベルで理解しているのが整備士さんです。
各系統の詳細は、今後追加予定のシステムカテゴリで扱っていきます。