はじめに:気象カテゴリについて

このカテゴリでは、航空気象をガッツリ深掘りしていきます。

訓練入門の「航空気象とは」で全体像はつかんでもらえたと思いますが、あの記事はいわば「気象、こんなのあるよ」という入口。このカテゴリからが本番です。

航空気象は、実は奥がものすごく深い分野です。METARに書かれた現象の原因まで読み解けてこそ、気象情報が本当に使えるものになります。パイロットにとって気象判断は、操縦技量と同じくらい重要なスキルです。

このカテゴリの目標は、METARやTAFを見て「あ、これ原因はあれかな」と自然に思えるレベルまで到達すること。
気象予報士の卵レベルになることを目指します。

気象、思ってたより全然深いぞー。そう感じてもらえるようなカテゴリにしていくので、ぜひ付いてきてください。

1. METARとTAFとは何か

前回の記事では、航空気象がどういう情報の集合体で、なぜパイロットにとって必須なのかを概観しました。今回はその中でも、現場で最も頻繁に目にする2つの情報METARTAFを深掘りしていきます。

METAR(メター)

空港で定時的に発表される気象実況です。世界中の空港で1時間または30分ごとに観測・発表され、風・視程・雲・気温などがコード化されています。「今、その空港はどんな空模様か」を知るための情報です。

TAF(タフ)

その空港の気象予報です。出発前に「目的地空港は到着予定時刻にどんな天気になっていそうか」を確認する時に使うものでしたね。

METAR TAF
役割 実況(今の天気) 予報(これからの天気)
発表間隔 1時間または30分ごと 通常6時間ごと
有効期間 次のMETARが報じられるまで 通常24〜30時間
フォーマット ほぼ共通 ほぼ共通

この2つ、コードの読み方がほぼ共通しています。
つまりMETARの読み方を押さえてしまえば、TAFも8割方読めるようになります。
このシリーズでは前編でMETARを、後編でTAF特有の表現を扱います。

2. 読む前に知っておくこと

ATIS(Automatic Terminal Information Service)

METARの読み方を学ぶ前に、まず知っておいてほしいことがあります。

実際のフライトでパイロットが気象情報を受け取る形は、METARの生テキストをそのまま読む、というケースばかりではありません。空港に近づいたパイロットがまず取得するのはATIS(エーティスまたはアティス)です。

ATISは、空港の気象情報・使用滑走路・NOTAMなどをまとめて音声で流している自動放送サービスです。内容はMETARをベースに作られていますが、気圧など細かく変わる値については、METARとは別に都度更新されます。更新のたびにアルファベット(Alpha、Bravo、Charlie…)で識別符号が付けられるので、パイロットは管制官に
「We have information Alpha」や
「with Alpha」と伝えることで、最新情報を持っていることを示します。

つまりMETARを読めるようになることは、ATISの内容を正確に理解することにも直結します。ただしATISとMETARは完全に同一ではなく、細かい定義や基準に違いがある部分もあります。現場での情報の流れのひとつとして、頭に入れておいてください。

3. METARを順番に読み解く

METARは決まった順番で要素が並んでいます。まずは全体像を見てみましょう。

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METAR/SPECI 空港識別符号 時刻 AUTO 風 視程 RVR 現在天気 雲/CAVOK 気温/露点 QNH TREND/NOSIG

では左から順に読み解いていきましょう。

METAR / SPECI

最初に来るのは、この電文の種別です。

METARは定時観測、つまり毎時00分や30分など決まった時刻に発表されるものです。
一方SPECI(スペシ)は、気象状況が急変した際に定時とは関係なく発行される特別観測報です。

SPECIが発行される条件はいくつかありますが、代表的なものとして視程の急激な悪化・風向の急変・雷雨の発生などが挙げられます。
つまりMETARよりもSPECIの方が、ある意味で「要注意」のサインとも言えます。

空港識別符号

種別の次に来るのが空港識別符号、いわゆる4レターコード(ICAO空港コード)です。

日本の空港であれば必ずRJまたはROから始まります。たとえば羽田空港であればRJTT、新千歳空港であればRJCCといった具合です。個別の空港コードはフラッシュカードで確認してみてください。

時刻(Z=UTC)

空港識別符号の次に来るのが観測時刻です。

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METAR RJTT 121200Z

この場合、12日の12時00分UTCに観測されたことを意味します。末尾のZはZulu timeの略で、UTC(協定世界時)を指します。航空の世界では世界中で同じ時刻基準を使う必要があるため、時刻は常にUTCで表記されます。

日本時間(JST)はUTCより9時間進んでいるので、UTC12時00分は日本時間の21時00分になります。フライト計画や気象情報を扱う際は、この変換が頭の中でサッとできるようになっておくと便利です。

AUTO・//

時刻の後ろにAUTOが付いているMETARは、自動観測装置によって発行されたことを示します。有人観測の空港であっても、運用時間外は自動観測に切り替わりAUTOが付くことがあります。

また、観測員の有無にかかわらず、センサーの故障など何らかの理由で取得できなかった要素は//(スラッシュ2つ)で表記されます。METARを読んでいて//が出てきたら、「この要素は観測できなかった」と理解してください。

風は以下の形式で表記されます。

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27015KT

これは風向270度・風速15ノットを意味します。風向は3桁、風速は2〜3桁の数字で表記され、末尾にKT(ノット)が付きます。

真方位と磁方位について

METARに記載される風向は真方位(True North基準)です。一方、タワーやATISでパイロットに通報される風向は磁方位(Magnetic North基準)で伝えられます。同じ風でも、METARと管制官の通報で数値が異なる場合があるのはこのためです。

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なぜ基準が違うのか
METARは場外報――つまり世界中に発信される情報です。どこの国の誰が読んでも同じ基準で解釈できるよう、真方位が採用されています。
一方、タワーやATISは場内報です。今まさにその空港を利用しているパイロット向けの情報なので、滑走路の向きと風向の差がより重要になります。滑走路の向きは磁方位で表されているため、風向も磁方位で揃えて通報されます。 *真方位と磁方位について詳しくはまた別の記事で扱います。

VRB(Variable)

風向が定まらず一定しない場合、風向の部分がVRBと表記されます。

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VRB03KT

風速が弱い時に起きやすく、「風向きがバラバラで特定できない」状態です。

風向の変動幅(Variable Wind Direction)

風速が3ktより大きく、風向が60度以上変動している場合、平均風向・風速の後ろに変動範囲が追記されます。

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27015KT 180V240

これは平均風向270度・風速15ノットで、風向が180度から240度の範囲で変動していることを示します。VRBとは異なり、ある程度の風速があるものの風向が安定しない状況で使われます。

ガスト(突風)

平均風速に対して10kt以上大きい最大瞬間風速が観測された場合はGを挟んで表記されます。

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27015G28KT

これは風向270度・平均風速15ノット・最大瞬間風速28ノットを意味します。

VRBの風速基準やガストの定義など、数値的な細かい定義は繰り返し覚えることが効果的です。フラッシュカードで確認してみてください。

視程

視程はメートルで4桁の数字で表記されます。

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3000

これは卓越視程3,000mを意味します。

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卓越視程とは
METARに記載される視程は「卓越視程」と呼ばれます。
これは360度全方向を観測した中で、半分以上の方向で視認できる最大距離のことです。
つまり特定の方向だけ視程が良くても、全体の過半数の方向で視程が悪ければ、悪い方の値が卓越視程として報じられます。 空港全体を通して大体これくらいの視界があるよ。という大まかな目安をつかむことができます。

卓越視程の概念図

9999とCAVOK

視程が10km以上の場合は9999と表記されます。さらに条件が揃うとCAVOK(Ceiling And Visibility OK)が使われ、視程・雲・現在天気をまとめてひとつの単語で置き換えます。
9999とCAVOKはどちらも「視程良好」的なニュアンスがありますが、成立条件が異なります。
*CAVOKの基準は後ほど説明します。

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アメリカのMETAR
アメリカのMETARでは視程がスタチュートマイル(SM)で表記されます。

1 1/2SM(1.5スタチュートマイル)

国際的なMETARとは単位が異なる点に注意が必要です。

RVR(Runway Visual Range)

RVRは滑走路視距離と呼ばれ、滑走路上で滑走路上のライトが視認できる距離のことです。

霧の中の飛行機

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R32L/0400

これは滑走路32LのRVRが400mであることを示します。

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なぜ卓越視程とは別に存在するのか
卓越視程は空港全体の視程を大まかに示すものですが、実際に着陸するパイロットが必要なのは「今まさに使っている滑走路でどこまで見えているか」という情報です。
RVRは滑走路に設置されたセンサーで直接計測されるため、より精度の高い情報として低視程での運航判断に使われます。

変動幅の表記

RVRが変動している場合はVを挟んで最小値と最大値が表記され、末尾にU(上昇傾向)・D(下降傾向)・N(変化なし)が付く場合があります。

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R32L/0400V0800U

RVRの詳細については別記事で改めて扱います。

現在天気

現在天気は、視程障害や降水現象などをコードで表記します。

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-RA

これは弱い雨を意味します。現在天気のコードは大きく3種類の要素で構成されています。

  • 現象そのもの:RA(雨)・SN(雪)・FG(霧)など
  • 強度:-(弱)・なし(並)・+(強)の3段階
  • 特徴・性質:BC(パッチ状)・BL(地吹き)・PR(部分的)・VC(周辺)など

VC(Vicinity)

VCは「空港周辺(概ね8〜16km以内)で現象が発生しているが、空港上空ではない」ことを示します。
空港自体はまだ影響を受けていないものの、接近している可能性があるという意味で、パイロットにとって無視できない情報です。

現在天気の欄が省略されている場合は「特記すべき現象なし」を意味します。個々の略語の意味はフラッシュカードで確認してみてください。

雲は雲量と雲底高度の組み合わせで表記されます。

雲量は空全体を8分割(オクタ)した単位で表します。

コード 雲量(オクタ) 意味
SKC 0 雲なし
FEW 1~2 わずかに雲あり
SCT 3~4 散在
BKN 5~7 多い(空の半分以上)
OVC 8 全天曇り

*意味の文面は私が勝手に考えたもので公式のものではありません

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BKN025

これは雲量BKN・雲底高度2,500ftを意味します。高度は100ft単位で表記されるので、025は2,500ftです。

雲のグループは低い順に並べて報告され、複数ある場合は続けて記載されます。

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FEW010 SCT018 BKN025

CB・TCU

雲量コードの後ろにCB(積乱雲)またはTCU(塔状積雲)が付く場合があります。

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FEW010CB

CBとTCUは雲量に関係なく、存在するだけで報告されます。他の雲とは別格の扱いで、航空機にとって特に危険な雲として区別されているためです。

NSC・NCD

特記すべき雲がない場合、状況に応じて以下が使われます。

  • NSC(Nil Significant Cloud):特記すべき雲なし
  • NCD(No Cloud Detected):自動観測装置が雲を検出しなかった場合。つまりNCDは雲がなく、かつMETAR AUTOの時に報じられます。

CAVOK

以下の条件をすべて満たす場合、視程・雲・現在天気の欄がまとめてCAVOKに置き換えられます。

  • 視程が10km以上
  • 雲底高度5,000ft以上かつ周囲に雲がない
  • CBおよびTCUがない
  • 特記すべき現在天気現象がない

気温・露点

気温と露点はスラッシュで区切って表記されます。

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15/08

これは気温15℃・露点8℃を意味します。マイナスの場合はMが頭に付きます。

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M02/M05

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気温と露点の差に注目
気温と露点の差が小さいほど、空気中の水蒸気が飽和に近い状態であることを示します。この差が2〜3℃以下になると霧が発生しやすくなるため、パイロットにとって気温と露点のスプレッドは重要な判断材料のひとつです。

QNH

QNHは気圧高度計の規正値で、METARでは以下のように表記されます。

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Q1013
A2992

頭のQはQNHを示し、続く4桁の数字がhPa単位の気圧値です。
アメリカのMETARではQの代わりにAが使われ、インチ水銀柱(inHg)で表記されます。

TREND(着陸用飛行場予報)

羽田や関空など一部の空港のMETARの末尾には、今後2時間の気象変化の傾向を示すTREND、別名着陸用飛行場予報が付きます。
すべてのMETARに含まれているわけではありません。

TRENDには以下の3種類があります。

  • NOSIG(No Significant Change):今後2時間以内に特記すべき変化なし
  • BECMG(Becoming):ある時間帯にかけて天気が変化する
  • TEMPO(Temporary):一時的な変化が見込まれる
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BECMG FM1300 TL1400 BKN020

これは「13時から14時にかけてBKN020に変化する見込み」を意味します。

TRENDはMETARに付加された短期予報という位置づけで、TAFほど詳細ではありませんが、直近の変化を素早く把握するのに役立ちます。
BECMG・TEMPOの詳細な使い方はTAFの読み方(後編)で改めて扱います。

4. 架空例:平常時

平常時

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METAR RJTT 231200Z 27015KT 240V300 9999 FEW020 SCT035 BKN050 15/08 Q1013 NOSIG

これは特に天気が悪くない、日常的なMETARのパターンです。
3章で扱った要素が一通り登場しています。全部説明できますか?

要素 内容
METAR 定時観測
RJTT 東京国際空港(羽田)
231200Z 23日12時00分UTC(日本時間21時00分)
27015KT 風向270度・風速15ノット
240V300 風向240度〜300度の範囲で変動
9999 視程10km以上
FEW020 SCT035 BKN050 雲:2,000ft・3,500ft・5,000ft
15/08 気温15℃・露点8℃
Q1013 QNH 1013hPa
NOSIG 今後2時間、特記すべき変化なし

全体的には視程良好・気温露点差も十分あり、穏やかなコンディションです。
ただし羽田の代表的な滑走路であるRwy34R/Lに対して風向は270度付近、つまり真横からの風が吹いている状況です。風向の変動幅も60度あるため、横風成分の変化にも注意が必要なコンディションと言えます。

5. 架空例:悪天候時(RVR・視程障害)

悪天時

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SPECI RJTT 231300Z 02008KT 0400 R34R/0300V0600D FG SCT005 OVC010 08/07 Q1008 BECMG TL1400 3000 BR

これは視程障害が発生している、緊張感のあるMETARです。

要素 内容
SPECI 特別観測(気象急変)
RJTT 東京国際空港(羽田)
231300Z 23日13時00分UTC(日本時間22時00分)
02008KT 風向020度・風速8ノット
0400 卓越視程400m
R34R/0300V0600D 滑走路34RのRVRが300〜600mで変動・下降傾向
FG
SCT005 OVC010 雲:500ft・1,000ft
08/07 気温8℃・露点7℃
Q1008 QNH 1008hPa
BECMG TL1400 3000 BR 14時までに視程3,000m・多少の改善見込み

定時観測ではなくSPECIで発行されている時点で、何かが起きたサインです。
卓越視程400m・RVR300〜600mで下降傾向、霧が発生しており雲底も500ftと低い。さらに気温と露点の差がわずか1℃で、霧がしばらく続く可能性が高い状況です。
TRENDではBECMGで14時までに改善見込みとなっていますが、RVRが下降傾向(D)を示しており、予断を許さないコンディションと言えます。

まとめ

前編ではMETARの構造を左から順に読み解いてきました。
最初は暗号のように見えたコードも、各要素の意味とロジックを押さえてしまえば、空港の状況を語る情報として読めるようになってきたのではないでしょうか。

ここまでカバーした内容を振り返ると:

  • METAR・TAFの役割の違い
  • ATISとの関係
  • 時刻・AUTO・//の読み方
  • 風(真方位・VRB・ガスト・変動幅)
  • 視程(卓越視程・9999・CAVOK)
  • RVR
  • 現在天気(構造とVC)
  • 雲(CB・TCU・NSC・NCD・CAVOK)
  • 気温・露点とそのスプレッドの意味
  • QNH
  • TREND・NOSIG

後編ではTAF特有の表現――FM・BECMG・TEMPO・PROBなど――を扱います。前編で身につけた読み方をベースに、後編でさらに深掘りしていきます。

各用語の数値的な基準や略語の定義は、繰り返し覚えることが効果的です。フラッシュカードをうまく活用してみてください。
また、METARをわかりやすい形にデコードするツールも用意していますので、ぜひ使ってみてください。