飛行機が上昇すれば、気圧は下がります。 でも実は、機体が全く動いていなくても、天気が変われば気圧は下がります。

気圧高度計は、この二つを区別できません。 上昇による気圧低下も、天気による気圧低下も、同じ「気圧の変化」としてしか読み取れないからです。

「高度の種類」では、この区別のために設定する基準(QNH)に軽く触れました。
この記事ではその手前、気圧そのものがどんな性質を持つのかを見ていきます。

気圧とは何か

そもそも気圧とは何なのか、確認しておきましょう。

空気にも重さがある

私たちの頭上には、地球を覆う分厚い大気があります。
空気にも重さがあり、その大気の柱がまるごと地表を押しています。

この「押す力」が気圧です。
気圧とは、単位面積あたりに空気がかけている力のことです。

高度が上がると気圧が下がる理由

高度が上がるほど、気圧は下がっていきます。

理由はシンプルです。
上空に行くほど、自分の上に乗っている空気の量が少なくなるからです。
地上では厚い大気の層すべてが頭上に乗っていますが、上空1万メートルまで上がれば、その上にある空気はだいぶ少なくなります。

押される力が弱くなる分、気圧も下がるというわけです。

大気の重さと高度による気圧の低下

*上空に行くほど、自分の上に乗っている大気の量は少なくなる。

気圧の単位:hPaとinHg

気圧の単位には主にhPa(ヘクトパスカル)を使います。

標準的な気圧は1013hPa。
高度計の基準の一つとしても後で登場する数字なので、頭の片隅に置いておいてください。

ただし、高度計によってはinHg(インチ水銀柱)という単位で目盛られていることもあります。
標準気圧は29.92 inHgと表記され、数字は違って見えますが、指しているのは同じ気圧です。単位が変わっただけと考えて大丈夫です。

気圧は場所と時間によって変わる

ここまでは、高度によって気圧が変わる話でした。
でも気圧が変わる原因は、高度だけではありません。

気圧差があるところには、風が生まれる

同じ瞬間でも、場所によって気圧は違います。

気圧の高いところと低いところがあると、空気には高圧側から低圧側へ動こうとする力が働きます。
これを気圧傾度力といいます。
狭い範囲で気圧が大きく変化しているところほど、この力は強くなります。

これがの元になる力ですが、実際に空気がどちらへ、どれくらいの強さで動くかは、この後で触れるコリオリの力や地表との摩擦の影響も受けて決まります。

気圧傾度力と風

*気圧差が大きいところほど、気圧傾度力は強くなる。

高気圧・低気圧とは何か

天気予報でおなじみの「高気圧」「低気圧」も、この気圧差から生まれる言葉です。

ただし、1013 hPaより高ければ高気圧、低ければ低気圧、という単純な話ではありません。

周囲と比べて気圧が高い場所が高気圧、低い場所が低気圧です。
あくまで相対的なものです。

地上の高気圧では下降流、低気圧では上昇流が見られることが多く、これが天気の違いにも表れます。
ただし高気圧・低気圧が生まれる仕組みには、温度分布や上空の空気の流れも関わっていて、単純に「下降流だから高気圧になる」と一方向に説明できるものではありません。ここでは深追いしません。

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高気圧・低気圧の中心付近では、風が時計回り・反時計回りに巻くように吹きます。これにはコリオリの力という、地球の自転による見かけの力が関わっています。少し込み入った話になるので、別記事で改めて扱います。

同じ場所でも、時間とともに気圧は変わる

気圧は場所だけでなく、時間によっても変わります。

高気圧や低気圧、前線は絶えず移動しているので、同じ場所にいても、時間が経てば気圧は変化していきます。
1日の中でも周期的な変化はありますが、ここでは高度計の設定に直接関わってくる、こうした気圧系の移動による変化を中心に見ていきます。

高度計は、気圧が変わった理由を区別できない

気圧高度計は、その名の通り気圧を測って高度を計算する計器です。
「高度の種類」で見た通り、大気の気圧は高度が上がるほど低くなる――その関係を利用して、今どのくらいの高さにいるかを読み取っています。

高度計が実際に測っているのは、気圧そのものです。
高さを直接測っているわけではありません。

そのため高度計から見れば、気圧が下がった理由が「上昇したから」なのか「天気が変わったから」なのかは関係ありません。
どちらであっても、高度計にとっては同じ「気圧が下がった」という現象でしかなく、表示される高度も同じように上がってしまいます。

高度計は原因を区別できない

つまり、機体がまったく上昇していなくても、低気圧が近づいてくるだけで、高度計の表示は変わってしまう可能性があるということです。

だからこそ、高度計には「今、この場所の気圧はどれくらいか」という基準を、人間の側から与えてやる必要があります。
次の章で見るQNHが、その基準です。

だから気圧高度計には基準の設定が要る

空港の気圧を、共通の基準に直す

空港で観測した気圧は、その空港の標高の影響を受けています。
標高が高い空港ほど、そこで直接測る気圧は低くなります。

このままでは、空港同士で気圧を比べることができません。
そこで、国際標準大気(気圧が高度とともにどう変化するかを定めた共通のモデル)を仮定し、実際に観測した気圧を、その空港の真下に平均海面があるとしたらそこでの気圧はいくつになるか、という値へ換算し直します。
これを海面更正と言います。

海面更正のイメージ

*標準大気を仮定して、観測気圧を平均海面付近の基準へ換算するイメージ。

QNHとは

こうして、国際標準大気を仮定して平均海面付近まで換算した気圧の値が、QNHです。

空港自体が海面にあるわけではないので、QNHを設定しても高度計がゼロを示すわけではありません。
高度計に設定すると、飛行場の地上ではその標高に近い値――指示高度――を示すようになります。

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天気図でよく見る「海面気圧」も、地上の気圧を海面基準に換算した値です。ただしQNHが国際標準大気を仮定して換算するのに対し、気象解析用の海面気圧はその地点の気温なども考慮して換算するため、算出方法が異なります。
そのため、同じ地点・同じ時刻でも、両者の値が完全には一致しないことがあります。QNHは高度計設定のための値、天気図の海面気圧は気圧分布を解析するための値、と役割で分けて考えるとよいでしょう。

なぜ、更新し続ける必要があるのか

QNHは一度設定したら終わり、というものではありません。

飛行機は移動します。
出発した空港のQNHと、目的地のQNHが同じとは限りません。また、たとえ同じ場所にとどまっていても、時間が経てば天気は変わり、気圧も変わっていきます。

古いQNHを使い続けていると、高度計に設定された気圧の基準が、今その場所にある実際の気圧と合わなくなります。 その分だけ、指示高度に設定差による誤差が生じることになります。気温など、他の要因による高度誤差については、別記事で扱います。

QNHはどこで手に入るか

QNHはMETARで通報されるほか、ATISの放送や管制官からの通報によって入手できます。

まとめ

気圧は、高度が上がるほど下がっていきます。
この規則性を使って、高度計は気圧から高さを読み取っています。

ただし気圧は、高度だけでなく、場所や時間によっても変わります。高気圧・低気圧の移動、前線の通過――こうした気象の動きは、機体が一切動いていなくても気圧を変化させます。

高度計は、気圧が下がった理由が上昇によるものか、気象によるものかを区別できません。
その場所・その時刻の気圧を基準として与えてやる、それがQNHという運用です。

飛行機が移動し、時間が経つ限り、QNHは更新し続けることになります。

💡

気圧が低いと、同じフライトレベルに対応する実際の高度は低くなります。そのため、遷移高度と最低使用可能なフライトレベルの間に必要な間隔(遷移層)を確保する目的で、遷移レベルが通常より高く設定されることがあります。
QNE・QFEとの使い分けや遷移高度の仕組みは「高度の種類」で詳しく解説しています。