METARの記事で、こんな文字列が出てきたのを覚えているでしょうか。
R34L/0600V1000U
前編では「RVRは別の記事で解説します」として、ここは説明を飛ばしていました。読み飛ばしたままになっている方もいると思います。
この記号が表しているのは RVR(Runway Visual Range/滑走路視距離) です。霧や雪で視界が悪いとき、滑走路に降りられるかどうかを判断する材料になる、実務上とても重要な数字です。
この記事では、RVRについて次の順で整理していきます。
- そもそも何を表す数字なのか
- どうやって測っているのか
- METARでどう読むのか
- 何のために使われるのか
読み終わるころには、冒頭の R34L/0600V1000U が読めるようになっているはずです。
RVRとは何か
RVR(Runway Visual Range/滑走路視距離)とは、滑走路中心線上にいるパイロットが、滑走路の標示や灯火(滑走路灯・中心線灯)をどこまで視認できるかを表した距離です。単位はメートル(またはフィート)で、「RVR 600m」なら、その滑走路上で前方600mまでは標示や灯火が視認できる、という意味になります。
RVRが卓越視程とは別に存在する理由は、METAR前編でも少し触れた通り、着陸に直結する「その滑走路の見え方」だけを取り出した、実用性の高い数字だからでした。
この記事では、そこからもう一歩踏み込みます。RVRはどうやって測られているのか、METARでどう読むのか、そしてなぜ精密進入の可否を左右するほど重要なのか——ここからその実態に迫っていきます。

*卓越視程は空港全体の見通し、RVRは滑走路に絞った見通しを表します。
どうやって測っているのか
RVRは、滑走路脇に設置された観測装置が自動で測定・計算した値です。
人が見た距離ではありません。
ここは意外と誤解されやすいので、最初に押さえておきましょう。
装置は光の弱まり方を見ている
代表的な測定装置に、透過率計(transmissometer) と 前方散乱計(forward scatter meter) があります。仕組みを厳密に説明すると難しくなるので、イメージだけ掴んでください。
透過率計は、決まった距離だけ光を飛ばし、その光が霧や雪でどれだけ弱まったかを測る 装置です。空気が澄んでいれば光はほとんど減らずに届き、霧が濃ければ大きく弱まります。この「弱まり具合」から、どこまで見通せるかを逆算しているわけです。
灯火の明るさも計算に入る
ここがRVRの面白いところなのですが、装置は空気の状態だけでなく 滑走路灯(Runway Edge Lights など)の明るさ も計算に反映しています。
同じ濃さの霧でも、灯火が明るく点灯していれば、パイロットからはより遠くまで光が見えます。つまり灯火の光度が上がると、RVRの値も大きくなります。
この「灯火が明るいほど遠くまで見える」という性質は、のちほど「夜間にRVRが卓越視程より大きく出る」現象に関わってきます。ここでは軽く覚えておく程度で大丈夫です。
RVRは「1つの値」とは限らない
もう一つ大事な点があります。RVRは滑走路全体でひとつの値、というわけではありません。滑走路の どの位置で測るか によって、複数の値が存在することがあります。
観測装置は、一般的に次の3か所に設置されます。
| 略号 | 位置 | 意味 |
|---|---|---|
| TDZ | Touchdown Zone | 接地帯(滑走路の入口付近) |
| MID | Midpoint | 滑走路中央 |
| END | Stop-end | 滑走路末端 |
ただし、3か所すべてに装置があるとは限りません。設置数は、その滑走路がどの精密進入カテゴリーに対応しているかによって変わります。CAT I の運用しかない滑走路では、接地帯(TDZ)に1台だけ、という構成が一般的です。より低い視程で運用するCAT II / IIIの滑走路になると、複数地点での測定が求められます。
霧は場所によって濃さが違うため、TDZは見えていてもMIDは見えにくい、といったことも起こり得ます。複数の装置がある滑走路では、それぞれの値が通報されることがあります。

*RVRは滑走路上の複数地点で測定されます(設置数は運用カテゴリーによります)。
METARでのRVRの読み方
では、冒頭の R34L/0600V1000U を分解していきましょう。
*RVR通報式は「滑走路・値・変動・傾向」の要素に分解できます。
滑走路・数値(前編の復習)
ここまでの要素は、METAR前編ですでに扱った内容です。簡単におさらいしておきましょう。
- R+滑走路番号 … Rのあとに滑走路番号。R34L なら「滑走路34L」のRVR
- 4桁の数値 … RVRの値(メートル)。0600 なら600m
V+数値 … 値が変動しているとき(前編の復習・補足)
RVRは基本的に、通報時刻直前10分間の値をもとにします。ただし、この10分間で値が大きく変動している場合は、ひとつの値にまとめず、1分間ごとに見たときの最小値と最大値を V でつないで通報します。
0600V1000 なら、「10分間の中で、1分ごとに見ると600mだった瞬間もあれば1000mだった瞬間もあり、値が大きく揺れていた」という状況です。
Vが付いているMETARを見たら、「今、RVRが一つの値に落ち着かないくらい不安定な状態」と読み取ってください。値の変動幅が大きいほど、視界がかなり不安定なコンディションだと言えます。
直近の変化傾向は、末尾の1文字で表されるのでしたね。
| 記号 | 英語 | 意味 |
|---|---|---|
| U | Upward | 増加傾向(良くなっている) |
| D | Downward | 減少傾向(悪くなっている) |
| N | No change | 変化なし |
ここまでは前編の内容とほぼ同じです。思い出せた方は、次に進んでください。
P と M … 測定範囲を超えたとき
ここからが今回の新しい内容です。数字の前に P や M が付くことがあります。
- P(Plus)… その値を 超えている。例:P2000 →「2000mより見通せる(2000m超)」
- M(Minus)… その値 未満。例:M0100 →「100m未満しか見通せない」
装置が測れる上限・下限を振り切ったときに使われる、と考えるとわかりやすいです。Pは「振り切れるほど良い」、Mは「振り切れるほど悪い」というイメージです。
まとめ:R34L/0600V1000U を読む
ここまでを組み立てると、冒頭の暗号はこう読めます。
滑走路34LのRVRは、600mから1000mの間で変動しており、傾向は増加中(回復方向)
分解してしまえば、そこまで難しくありませんね。
読み取り練習
理解できたか、いくつか隠して確認してみましょう。答えは各行をタップで表示できます。
- R16R/P2000N → 滑走路16RのRVRは1800m超、変化なし
- R04/M0075D → 滑走路04のRVRは75m未満、減少傾向(悪化中)
- R22L/0350V0600U → 滑走路22LのRVRは350m〜600mで変動、増加傾向
RVRは、卓越視程やRVRが一定の値以下に下がったときに通報されます。視界が良好な日のMETARにRVRが出てこないのは、そもそも通報する必要がないためです。
ただし、計測自体は常にされています。
RVRは何のためにあるのか
ここまででRVRの読み方は押さえられました。では、この数字は実際どんな場面で使われているのでしょうか。
RVRが最も重要な役割を果たすのが、離着陸の最低気象条件(Minima) です。 「この視程・RVRがなければ、その空港には降りられない」という基準として使われます。
なぜ視程ではなくRVRなのか
計器進入の最終段階で、パイロットが本当に知りたいのは「空港周辺がどれくらい見えるか」ではありません。
目の前の滑走路に、降りることができるか。
これに尽きます。卓越視程は空港全体のざっくりした指標なので、この判断には少し大雑把すぎます。だからこそ、進入の可否を左右する場面では、滑走路に特化したRVRの数字が使われるのです。
精密進入カテゴリーとRVR
計器進入には、CAT I・CAT II・CAT III という区分があります。ざっくり言うと、カテゴリーが上がるほど、厳しい気象条件下でも着陸できる、という構造になっています。
| カテゴリー | おおまかなイメージ |
|---|---|
| CAT I | 最も基本的な精密進入。RVR・視程ともに一定の基準以上が必要 |
| CAT II | CAT Iよりも低いRVRの状況下で着陸できる |
| CAT III | 非常に低いRVRでも着陸を可能にする、最も高度な区分 |
CAT ごとの具体的な数値基準は、機材や運航規程によっても細かく変わってくるため、ここでは深入りしません。大事なのは、カテゴリーの番号が上がるほど、着陸に必要な最低視程・RVRの基準が下がっていくという段階構造がある、という点です。CATの詳細は、また別の記事でじっくり扱う予定です。
RVRだけで着陸可否が決まるわけではない
実際の離着陸可否は、RVRの数値だけで決まるわけではありません。使用する進入方式、航空機の装備・カテゴリー、運航規程など、複数の条件を組み合わせて判断されます。RVRはあくまで、その判断材料のひとつです。
知っておきたい補足
RVRの読み方と役割がわかったところで、最後にいくつか、知っておくと理解が深まる補足を扱います。試験対策としても、実務の感覚としても役立つ内容です。
夜間はRVRが視程より大きくなることがある
先ほど触れた「灯火の明るさもRVRの計算に入る」という話を覚えているでしょうか。夜間は滑走路灯がより際立って見えるため、同じ濃さの霧であっても、RVRの値が卓越視程よりも大きく出ることがあります。
昼間は太陽光の中に灯火の光が埋もれてしまいますが、夜は暗闇の中で灯火がくっきり際立ちます。同じ霧の濃さでも、光が強調される分だけ「見通せる距離」が伸びる、というわけです。

*同じ濃さの霧でも、夜は滑走路灯がくっきり見えるぶんRVRが延びます。
RVR観測がない空港では、視程から換算することもある
すべての滑走路にRVR観測装置があるわけではありません。RVR観測値がない場合には、地上視程をもとに、運航上の判断に使うための換算値を用いることがあります。
この換算値は CMV(Converted Meteorological Visibility) と呼ばれます。空港に設置されている灯火の種類や、昼間・夜間といった時間帯によって、具体的な算出方法が定められています。ただし、CMVが使える範囲は運航規程や進入方式によって制限され、特にCAT II / IIIのような低視程運航では、原則として実測のRVRが重要になります。
RVRが直接測れないからといって、低視程時の判断材料が失われるわけではない、ということです。
RVRにも限界がある(Slant Visual Rangeとの違い)
最後にひとつ、RVRの限界について触れておきます。RVRは、水平方向の見通し距離をもとに計算された値です。しかし実際にパイロットが着陸時に見ているのは、斜め前方、つまりコックピットから滑走路を見下ろす角度の視界です。
この「斜め前方への視程」は Slant Visual Range(SVR) と呼ばれ、RVRとは厳密には一致しません。霧の層の厚みや高度によって、水平方向は見えていても斜め下方向は見えにくい、といった状況が起こり得ます。
RVRはあくまで水平方向を基準にした計算値です。「RVRの数字=パイロットが実際に見ている距離」と単純に一致するわけではない、という点は頭の片隅に置いておいてください。
まとめ
RVR(Runway Visual Range/滑走路視距離)について、一通り整理してきました。最後に振り返っておきましょう。
- RVRとは何か … 滑走路中心線上のパイロットが、滑走路の標示や灯火をどこまで視認できるかを表した数字。空港全体の卓越視程とは違い、滑走路に絞った実用的な指標
- どう測っているか … 透過率計などの装置が自動で計算した値。滑走路灯の明るさも反映され、TDZ・MID・ENDなど複数地点で測定されることもある
- どう読むか … R+滑走路番号、数値、P/M(測定範囲超過)、V+変動幅、U/D/N(傾向)の組み合わせ
- 何のためにあるか … 計器進入の最低気象条件として使われ、CATの区分が上がるほど、より厳しい気象条件下でも着陸できる
RVRは数字の羅列に見えて、実は「今、目の前の滑走路がどれだけ見えているか」という、パイロットにとって非常に実用的な情報です。
小テスト
表
R34L/0600V1000U を読んでみましょう
裏
滑走路34Lの、通報時刻直前10分間における1分ごとの平均RVRが、600mから1000mの間でばらついている(ひとつの平均値に定まらないほど変動している)状態。傾向は増加中(回復方向)
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表
「P2000」と「M0100」、それぞれどんな意味?
裏
P2000…RVRが2000mを超えている(測定上限超え) M0100…RVRが100m未満(測定下限未満)
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表
夜間、卓越視程が800m、RVRが1000mというケースはあり得る?
裏
あり得る。夜間は滑走路灯が際立って見えるため、灯火の明るさが反映されるRVRのほうが、卓越視程より大きい値になることがある
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表
最低気象条件の判断で、卓越視程よりもRVRが重視されるのはなぜ?
裏
着陸の可否を左右するのは「空港全体がどう見えるか」ではなく「目の前の滑走路が見えるか」だから。RVRは滑走路に特化して直接測定された、より実用的な数字
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表
RVRは、人が目視で測った距離ですか?
裏
いいえ。RVRは滑走路脇の観測装置(透過率計や前方散乱計)が、光の弱まり方・灯火の明るさなどをもとに自動で計算した値です。人が見た距離ではありません
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