以前「計器・コックピット概論」で、計器を4つのグループに分けて紹介しました。その中で、対気速度計・高度計・昇降計をまとめて「ピトー静圧系統」と呼ぶ、という話に軽く触れています。名前だけは登場しましたが、中身まではまだ踏み込んでいませんでした。

「速度の種類」を読んだ方は、ピトー管・静圧孔・ベルヌーイの定理の話がおさらいになると思います。あちらでは対気速度計にフォーカスして説明しましたが、この記事では視点を一段広げ、システム全体として見ていきます。

ピトー静圧系統がすごいのは、たった2つの圧力から、3つも計器を動かしているという点です。この「2つしかない」という構造さえ掴んでしまえば、どれかが詰まったときに何が起きるかは、丸暗記しなくても自分で導けるようになります。今回のゴールはそこです。

圧力源は2つ、計器は3つ

まずは全体像から見ていきましょう。

ピトー静圧系統が扱う圧力は、次の2つだけです。

  • 全圧(total pressure / pitot pressure):ピトー管が機首正面から受け止める圧力。静圧に、飛行機が動くことで上乗せされた分(動圧)を足したもの
  • 静圧(static pressure):静圧孔が測る、その高度における大気そのものの圧力

そしてこの2つの圧力が、パイプでそれぞれの計器につながっています。

  • 対気速度計(Airspeed Indicator / ASI):全圧と静圧の両方
  • 高度計(Altimeter):静圧のみ
  • 昇降計(Vertical Speed Indicator / VSI):静圧のみ

対気速度計だけが全圧を使い、残りの2つは静圧だけで動いています。ここが、この系統を理解するうえで一番大事なポイントです。

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高度計と昇降計は、どちらも静圧だけを使っているのに、片方は「高さ」、もう片方は「変化率」という異なる情報を表示しています。同じ材料からどうやって違う値を作っているのか、その仕組みにはちょっとした工夫があります。

どの計器が何を使っているか

前章で見た配管図を、計器ごとに詳しく見ていきます。

対気速度計(ASI):全圧と静圧の差

対気速度計の仕組みは、「速度の種類」ですでに扱った通りです。全圧と静圧の差、つまり動圧の大きさをもとに、速度の数字を表示しています。

高度計(Altimeter):静圧だけで高さを測る

高度計が受け取る圧力は、静圧だけです。

ケースの中には、アネロイド(aneroid)と呼ばれる金属製の蛇腹状カプセルが入っています。中は真空に近い状態に保たれていて、周囲の静圧が下がる(=高度が上がる)と、外からの圧力が弱くなる分だけカプセルが膨らみます。逆に静圧が上がれば縮みます。このわずかな伸び縮みを、歯車やリンク機構で拡大して指針の動きに変え、高度の数字として表示しています。

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ただし、静圧の値だけで高度が一意に決まるわけではありません。実際に高度計が示す数字には、どの気圧を基準(ゼロ)にするかという「高度計規正値(QNH・QNEなど)」の設定も関わってきます。この基準の話は「高度の種類」で詳しく扱っているので、気になる方はそちらもどうぞ。

昇降計(VSI):静圧の「変化率」を測る

昇降計も、使っている圧力は静圧だけです。ただし高度計とは、静圧の「使い方」が違います。

高度計は、その瞬間の静圧の値そのものを高さに変換しています。一方昇降計が知りたいのは、高さそのものではなく「今どれくらいの速さで高度が変わっているか」という変化率です。同じ静圧という材料から、どうやって変化率を取り出しているのでしょうか。

昇降計のケースの中には、ダイアフラムと、それを取り囲むケースという2つの空間があります。

  • ダイアフラムの中には、静圧孔からの圧力がそのまま、ほぼ瞬時に伝わります
  • 一方ケースの中にも同じ静圧孔からの圧力が伝わるのですが、こちらは「キャリブレーテッドリーク(calibrated leak)」と呼ばれる、意図的に開けられた微小な穴を通ってから入ってきます

この穴はわざと細くしてあるので、ケース内の圧力はダイアフラムの中の圧力に比べて、少し遅れて追いついてきます。

高度が変化している間は、この「今の圧力」と「少し遅れて追いかけてくる圧力」の間に差が生まれます。どちらの圧力が高いかで上昇か降下かが決まり、差の大きさが昇降の速さに対応しているわけです。逆に高度が一定なら、ケース内の圧力もいずれダイアフラムに追いつき、差はゼロになって昇降計はゼロを示します。

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同じ静圧でも、伝わり方を変えるだけで違う情報が取り出せる
高度計は静圧の「値」を、昇降計は静圧の「変化の速さ」を見ています。同じ1種類の圧力からでも、計器の内部構造次第で違う情報を引き出せる、という好例です。

ここから先は、この系統のどこかが詰まってしまったときの話に入ります。とはいえ、症状を一つひとつ覚える必要はありません。詰まった場所によって「どの圧力が生きていて、どの圧力が閉じ込められるか」を考えれば、計器がどう動くかは自然と導けます。この後の2つの章では、その考え方をそのまま使って見ていきます。

ピトー管が詰まったら

ピトー管が詰まる原因として代表的なのが、着氷です。細い管なので熱を奪われやすく、条件が揃うと入口から徐々に氷が張り、最終的にはふさがってしまいます。

ここで一つ、ピトー管の構造について触れておきます。ピトー管には通常、ドレインホール(drain hole)という小さな排水穴が空いています。本来は、管の中に入り込んだ雨水や結露を外に逃がすための穴です。この穴が閉塞時に「開いているか、塞がっているか」によって、対気速度計の挙動がまったく違うものになります。

ケース1:入口だけ閉塞、ドレインホールは開通している

まず考えるのは、「残っている圧力は何か」でした。

ピトー管の正面(全圧を取り込む入口)が氷で塞がれると、外の空気はもう管の中に入ってこられません。ただしドレインホールは開いたままなので、管の中の空気は少しずつそこから逃げていき、最終的には周囲の静圧とほぼ同じ値まで落ち着きます。

全圧側の配管に伝わっているのは、動圧の上乗せがない、静圧とほとんど変わらない圧力です。対気速度計が見ているのは「全圧と静圧の差」でしたから、これは実質「静圧-静圧」を見ているのと同じ状態になります。差はどんどんゼロに近づき、指針は実際の速度に関係なくゼロへ向かって落ちていきます。

ケース2:入口とドレインホールの両方が閉塞している

こちらも、同じように「残っている圧力は何か」から考えてみましょう。

氷がさらに成長してドレインホールまで塞いでしまうと、管の中の空気はどこにも逃げられなくなります。塞がれた瞬間の全圧が、そのまま配管の中に閉じ込められます。つまり、全圧側は固定。一方、静圧側は静圧孔が正常なままなので、静圧側は生きたまま、高度が変わるたびに動き続けます。

対気速度計は、この「固定された全圧」と「動き続ける静圧」の差を見ています。ここでは、実際の飛行速度は変わらないものとして考えます。この状態のまま上昇したら、指示はどう動くでしょうか。

上昇すると、高度が上がるので静圧は下がっていきます。全圧側は固定されたまま動きません。片方が固定されたまま、もう片方が下がっていくのですから、その差はどんどん広がっていきます。差が広がる=対気速度計が表示する数字が増える、ということです。実際の速度は変わっていないのに、指示速度はどんどん増えていきます。

降下する場合はこの逆です。静圧は上がっていくので、固定された全圧との差はどんどん縮まっていき、指示速度は減っていきます。

しかし速度を変えても指示は変わりません。ここまで来ると、対気速度計としての役目を失って、高度計のような挙動をしていると言えます。

静圧孔が詰まったら

前章のピトー管の詰まりは、対気速度計だけに影響する話でした。静圧孔の詰まりはこれと違い、対気速度計・高度計・昇降計の3つすべてに影響が及びます。理由はシンプルで、この3計器がそろって静圧を材料にしているからです。

以下では、静圧孔から外気の静圧が完全に届かなくなったケースで考えます。詰まった瞬間の静圧が、そのまま配管の中に閉じ込められる状態です。

ここでも、「残っている圧力は何か」から考えていきましょう。

高度計:詰まった高度で固定される

高度計はアネロイドの伸び縮みで、周囲の静圧の変化をそのまま高度に変換していました。ところがその静圧自体が、詰まった瞬間の値でずっと固定されてしまいます。アネロイドはもう伸びも縮みもしないので、指針は詰まった瞬間の高度に張りついたまま動かなくなります。実際にはどれだけ上昇・降下していても、指示は変わりません。

昇降計:ゼロに落ち着いて固定される

昇降計は、ダイアフラムに瞬時に伝わる静圧と、キャリブレーテッドリークを通って遅れて追いつくケース内静圧との差を見て、変化率を表示していました。

静圧そのものが動かなくなれば、この2つの圧力もいずれ同じ値で釣り合います。差はゼロに収束し、昇降計は0 FPMを示したまま固定されます。実際に上昇していても降下していても、この表示は変わりません。

対気速度計:詰まった高度を境に、上と下で逆の誤差が出る

3計器の中で一番読みにくいのが対気速度計です。ここでも「残っている圧力は何か」から考えます。

対気速度計は全圧と静圧の差を見ていましたが、今回全圧側は静圧孔とは関係なく正常に動いています。動かなくなったのは静圧側だけで、詰まった瞬間の値のまま固定されています。実際の飛行速度は変わらないものとして考えます。

ここで、詰まった高度より上に上昇した場合を考えてみましょう。本来なら、上昇するほど実際の静圧はどんどん下がっていくはずです。ところが静圧側の配管に伝わっているのは、詰まった瞬間の、実際よりも高い静圧の値のままです。全圧との差を計算するとき、本来より高い静圧を差し引くことになるので、算出される差は、静圧系統が正常なら表示されるはずの指示速度より小さくなります。詰まった高度より上を飛んでいるときは、対気速度計は本来の指示速度より低く表示する、ということです。

逆に、詰まった高度より下に降下した場合はどうでしょうか。本来なら、降下するほど実際の静圧は上がっていくはずですが、配管の中には詰まった瞬間の、実際よりも低い静圧が残ったままです。本来より低い静圧を差し引くことになるので、算出される差は本来の指示速度より大きくなります。詰まった高度より下を飛んでいるときは、対気速度計は本来の指示速度より高く表示する、ということです。

高いところでは遅く、低いところでは速く見える。実際の速度感覚と表示がずれる分、この誤差はかなり気づきにくいものです。

系統を守る・トラブルに備える

最後に、この系統を守るための仕組みと、詰まってしまったときの備えを見ていきます。

ピトーヒート:入口を凍らせない

3章で見た通り、ピトー管の詰まりの代表的な原因は着氷です。これを防ぐために、多くの機体のピトー管には電熱式のヒーターが内蔵されています。使用のタイミングや条件は、機種のPOH/AFMやチェックリストに従います。

機種によっては、ピトー管だけでなく静圧孔側にもヒーターが備わっているものがあります。

オルタネートスタティックソース:静圧が使えなくなったときの代替

静圧系統そのものが詰まってしまった場合に備えて、多くの機体にはオルタネートスタティックソース(alternate static source)と呼ばれる代替経路が用意されています。非与圧の小型機では、コックピットにあるバルブを開くことで、機内の圧力を代替の静圧として取り込む方式がよく使われています。

ただし、機内の圧力は外部の静圧とまったく同じではありません。機体の周りを空気が流れる際のベンチュリー効果により、与圧のない機内の圧力は、外部の静圧よりわずかに低くなるのが一般的です。

その結果、オルタネートスタティックソースに切り替えると、高度計・対気速度計はどちらも本来の指示より高めの値を示し、昇降計は一時的に上昇を示してから落ち着きます。どちらの方向へどの程度ずれるかは機種によって差があり、POH/AFMに補正値が記載されている機体もあります。載っていない機体も多いので、自分が乗る機体で確認しておくとよいでしょう。

プリフライトでの確認

ここまで見てきた故障は、飛行中に突然起きるとは限りません。虫の巣や汚れ、カバーの外し忘れなど、地上にいる間に開口部が塞がれてしまうケースもあります。ピトー管の入口とドレインホール、静圧孔がふさがれていないかは、プリフライトチェックリストの確認項目として必ずチェックします。

まとめ

最後に、計器ごとの使用圧力と故障時の症状を表で整理しておきます。

計器 使用する圧力 ピトー管の詰まり 静圧孔の詰まり
対気速度計 全圧・静圧(差) ドレインホール開通:ゼロへ/入口+ドレインホール閉塞:高度計のような挙動 詰まった高度より上で低く、下で高く表示
高度計 静圧のみ 影響なし 詰まった高度で固定される
昇降計 静圧のみ 影響なし ゼロに収束して固定される

表だけを見ると症状の数が多く感じるかもしれませんが、覚えるべきことは一つだけです。詰まった場所によって、どの圧力が生きていて、どの圧力が閉じ込められているか。それさえ追えれば、計器がどう動くかはこの表を見なくても導けます。