1.電気が必要な理由

現代の飛行機はほぼすべての機能を電気に依存しています。

無線通信、航法計器、センサーの値をデジタル信号に変えるコンピュータ、トランスポンダー、ヒーティングシステム、警告灯、客室のライト..... これらが一度に使えなくなった状態での飛行を想像してみてください。
IFRはもちろん、VFRでの飛行も著しく制限されてしまいます。

だから電気系統の設計思想は「電気なしで飛ぶ」ではなく、「電気系統が壊れても飛行を継続できるようにする」という方向に向かっています。

機種によって差はありますが、一般的に電気が無くて動くもの電気が必要なものを整理するとこうなります。

電気が無くても動く 電気が必要
エンジン 無線通信
操縦舵面 トランスポンダー
アナログ計器 GPS/FMS
磁気コンパス ピトーヒート
計器証明・ライト類

*ここで挙げているものはあくまで一例です。

2.電気はどこで作られ、どう流れるのか

電気系統を理解する第一歩は、電気がどこで作られてどこへ届くのかという流れを把握することです。

バッテリー:始動時の電源

エンジンが止まっている状態では、バッテリーが唯一の電源です。
エンジンの始動時に、バッテリーからスターターモーターへ電力が送られ、エンジンが始動します。エンジンが回転を始めると、オルタネーターがエンジンの回転力を利用して発電を開始し、その後はオルタネーターが主電源になります。

小型機のバッテリーは車と同じ「鉛蓄電池」が一般的ですが、先述の通り電気を必要とする機器の数は非常に多く、バッテリーに貯めてある電気だけでの長時間飛行は想定されていません。

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大型機にはバッテリー以外の電気ソースも搭載されています
大型ジェット機では機体バッテリーだけではエンジンを始動できないため、地上電源(GPU:Ground Power Unit)や補助動力装置(APU:Auxiliary Power Unit)から電力や圧縮空気(Pneumatic)を供給してエンジンを始動します。小型機にもGPUを接続できるものがありますが、使用は限定的で、大型機のそれとは大きく異なります。

オルタネーター:エンジン駆動中の主電源

エンジンが始動すると、オルタネーター(Alternator)が主電源になります。エンジンの回転を利用して発電し、機内の電気系統に電力を供給しながら、同時にバッテリーを充電します。

オルタネーターが正常に機能している限り、バッテリーは充電された状態に保たれます。

一部ではオルタネーターのことをジェネレーターとも呼んだりしますが、この2つは言葉の意味が少し異なります。
ジェネレーターは発電機そのものを意味することもありますが、基本的には直流電源です。オルタネーターは交流で発電する発電機を指します。ジェネレーターも広い意味では間違いではないのですが、オルタネーターと呼んだ方がより具体的になります。
飛行機の発電がオルタネーターで行われるのは、エンジンの出力によらず安定した電力を発電できるためです。

電気の流れ

マグネトー:点火系統の独立

エンジンは燃料と空気の混合気体を圧縮して点火します。基本的にエンジンの圧縮力だけでは燃焼しないため、スパークプラグで火花を発生させ、混合気に燃焼のきっかけを与えてあげる必要があります。
この火花の発生には電気が必要です
しかし、エンジンは飛行機を飛ばすうえで最も重要なもの。もし電気系統が壊れたらエンジンも止まってしまうなど危険すぎますよね。

そのため、スパークプラグ用の電気だけを作る専用の装置である、マグネトーがあります。

マグネトーはエンジンの回転を利用し電磁誘導で電気を作ります。
マグネトー ≒ マグネット(Magnet) 冗長性を確保しているわです。

DCとAC

小型機の電気系統はほぼDC(直流)で統一されており、14Vまたは28Vが一般的です。
小型機においてもオルタネーター自体は交流で発電していますが、内臓の整流器(レクチファイアー)で直流に変換したうえでバスへ出力しています。
ただし一部の計器(ジャイロ計器など)はAC(交流)を必要とするため、インバーター(変換器)を使ってDCからACに変換して供給します。
DCとACの違いは、電圧がどうとか、送電中の損失がどうとか聞いたことがありますが、パイロットはそこまで知らなくていいし、自分もあまりよく分かってないので割愛します笑
有識者の方教えてください。

3.バスとサーキットブレーカー

電気はオルタネーターやバッテリーで作られますが、各機器に直接配線されているわけではありません。
電気はまず「バス(Bus Bar)」と呼ばれる共通の配電ラインに集められ、そこから各機器へ分配されます。

バスとはなにか

配電盤みたいなものです。
もしバスが一つしかない場合、そのバスに問題が起きたとき全機器への電力が同時に失われます。そのため、小型機でも複数のバスに目的別に配電するのが一般的です。
これは後述する、異常時のロードコントロールにもつながってきます。

バスの種類

代表的なバスとその役割を整理します。

Main Bus(メインバス)

通常飛行中に使う機器のほとんどが接続されています。
無線、ライト、ピトーヒートなど、オルタネーターとバッテリーの両方から供給を受けます。

Avionics Bus(アビオニクスバス)

航法機器や通信機器専用のバスです。Avionics Masterスイッチで独立してON/OFFできる機体が多く、エンジン始動時の電圧降下からアビオニクス機器を保護する役割もあります。

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補足
エンジンの始動には大量の電気を使用します。安定してエンジンを始動させるためにも、不要な計器類への電力供給は一時的に停止させたいものです。
そんなときにAvionics Masterスイッチを切ることで、マップなどのエンジン始動には必要ない計器への電力供給を断つことができます。ただし、エンジン計器やPFDといった主要な計器、メインの無線機器などへの電力供給は維持されます。

Essential Bus(エッセンシャルバス)

非常時に最低限必要な電気だけを残すためのバスです。
普段は

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オルタネーター → メインバス → エッセンシャルバス → 各機器

となっていますが、非常時にはメインバスから切り離れ、

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バッテリー → エッセンシャルバス → 各機器(安全な飛行に不可欠な計器類)

となり、バッテリーの電力をここに集中させることができます。

Hot Bus(ホットバス)

バッテリーに直結したバスで、Masterスイッチの状態にかかわらず、常に通電しています。
とくにELTや時計など、常時電源が必要な機器が接続されています。

バスの構成と名称、挙動は気体によって異なります。上記はあくまで代表的な例で、実際に乗る機体のPOHや飛行規程で確認してください。

バス構成図

サーキットブレーカー

各機器はバスからさらにサーキットブレーカー(Circuit Breaker: CB)を経由して電力を受け取ります。日本語言うと回路遮断器です。サーキット(回路)、ブレーカー(遮断器)。
サーキットブレーカーは回路に過電流が流れたときに自動的に回路を遮断するものです。配線や機器を熱・火災から守ります。
CBの特徴は、遮断された回路を簡単に再接続(リセット)できるという点です。

CBが飛び出したときは、まず原因を探り、特定できなかった場合には一度リセットして回路を再接続します。
再度飛び出すようであれば、その回路に問題があると判断してそのままにしておきます。原因が不明なまま何度もリセットするのは配線の過熱につながります。

4.電気が失われても飛び続けられる理由

電気系統は壊れることを前提に設計されています。
オルタネーターが故障しても、バッテリーが上がっても、それだけで直ちに墜落に向かってしまうわけではありません。複数の安全策が組み合わさっています。
過去の記事で紹介した、システム安全性確保の具体例を挙げます。

複数の電源ーー冗長性の確保

電源が1つしかなければ、それが壊れた瞬間にすべてが止まります。
だから飛行中はオルタネーター(主電源)とバッテリー(バックアップ)を持ち、どちらか一方が失われても安全に着陸する分の電力は供給できるようにしています。これが冗長性です。

バッテリーを用途ごとに複数持つ機体も多くあります。
双発機ではエンジンごとにオルタネーターを持つことで、さらに冗長性を高めています。

エッセンシャルバスの切り離しーーロードシェーディング

オルタネーターが故障してバッテリーだけになった場合、すべての機器を動かし続ければバッテリーはすぐに尽きてしまいます。
そこで各機器への給電を個別に遮断することで、Essential Busなど、最低限必要な回路へ優先的に電力を残します。
これをロードシェーディング(Load Shedding)といいます。

何を切って何を残すかはPOHに定められていますが、そのときの状況からパイロット自身の柔軟な判断が求められます。

ロードシェーディング

マグネトーの独立性ーーエンジンだけは最後まで止めない

2章で触れたとおり、エンジンの点火系統はバッテリーともオルタネーターとも独立しています。
電気系統が完全に失われてもエンジンは回り続けるため、推力と基本的な飛行操作は維持されます。電気系統の故障がそのまま墜落につながることは無い理由です。

マグネトー

バッテリーのみでの飛行時間

ロードシェーディングを実施してもバッテリーの電力には限りがあり、決して多くはありません。
特に小型機のバッテリーで確保できる時間は30分程度です。(法律において30分以上のバッテリー容量の搭載が義務付けられているため、逆に言えば最低でも30分は確保されています。)

オルタネーターの故障が起きた際には、計器の表示と音が鳴るため即座に把握することができます。しかし、時間的余裕は少ないため、現在の状況をすみやかに把握し、最寄りの安全に着陸できる空港へ向かう必要があります。

5.電気系統の異常と対処

電気系統の異常は、大きく「オルタネーターの故障」と「バッテリーの問題」に分けられます。
どちらも計器の読み方と対処の優先順位を理解しておくことが重要です。

異常をどう見つけるか

電気系統の状態を確認するための計器は主に2つです。

アンメーター(Ammeter)

電流の流れを示します。
オルタネーターが正常に発電していれば、飛行中はプラス側(充電中)に触れています。マイナス側に触れている場合、オルタネーターが機能していないか、発電量が足りていないことを示しています。

機体によっては、同じ計器でも「エンジン駆動中はオルタネーターの値を表示」「エンジンが止まっている場合はバッテリーの値を表示」の用になっている場合もありますので、POHなどでしっかりと確認しておきましょう。

バスボルトメーター(Bus Voltmeter)

バスの電圧を示します。正常な飛行中はオルタネーターが電気を供給しているため、オルタネーターの電圧が表示されます。
オルタネーターが停止するとバッテリーから電力が供給されるようになるため、電圧がバッテリーの値まで下がります。

大体は、オルタネーターが28V、バッテリーが24Vです。
オルタネーターがバッテリーを充電するために、オルタネーターの方が必ず電圧が高くなります。

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ウォーニングシステムがあるのに計器を見なければならない理由
異常があれば、ライトと音によりパイロットに知らされます。ではなぜ、異常通報がされていない場合も計器をモニターする必要があるのか?
それは、異常を通報するシステムそのものが壊れている場合のためです。
数値は異常を示していたが、ウォーニングシステムが壊れていたため対処することができなかった。これではパイロットが乗っている意味がありません。
ありとあらゆる危険因子(スレッド)を考慮しながらフライトすることがパイロットには求められます。

電気系統を操作するスイッチ

コックピットの電気系統スイッチは、多くの小型機でBATとALTの2つに分かれています。

BAT(バッテリー)

バッテリーをバスに接続するスイッチです。
OFFにすると電気系統全体への供給が止まります。

フライトの準備とエンジンを始動するための最低限の装備に対して電気が供給されます。

ALT(オルタネーター)

オルタネーターをバスに接続するスイッチです。
オルタネーター故障時には一度OFFにしてからONに戻すことで復旧を試みることがあります。
ただし復旧しない場合はALTスイッチをOFFにし、さらなるトラブルの可能性をつぶします。その後はバッテリーのみで飛行し、ロードシェーディングを行います。

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対処の考え方
オルタネーター故障の警告が出たときの基本的な流れはPOHに従いますが、考え方の骨格はシンプルです。

  1. オルタネーターの復旧を試みる
  2. 復旧しなければ、ALTマスターをオフにしてロードシェーディングを実施する。(チェックリストに従う)
  3. バッテリー残量を考慮して、安全に着陸できる最寄りの空港へ目的地変更
  4. ATCに状況を伝える

オルタネーターとバッテリー

電気系統の異常は即座に飛行不能になるようなものではありません。
落ち着いて手順を踏むことで、安全に対処できるよう設計されています。