
エンジン系統では、燃料をタンクからエンジンまできれいに届ける仕組みを見てきました。 でも、そもそも燃料自体にどんな性質があるのかには、まだ触れていませんでした。
ひとくちに「燃料」といっても、レシプロ機が使うAVGASと、タービン機やディーゼル機が使うJet Aでは中身がまったく違います。
燃料はどれも同じではない
航空機の燃料は、大きく分けて2種類あります。AVGAS(Aviation Gasoline / アブガス)と、Jet Aです。
AVGASは、訓練機のようなレシプロエンジン機で使われるガソリンです。これまでこのサイトで扱ってきた燃料は、基本的にこちらを指しています。
一方Jet Aは、灯油に近い性質を持つ燃料で、タービンエンジン機で使われます。さらに、エンジン系統の記事で触れたDA42のようなディーゼルエンジン機も、点火プラグを使わず圧縮熱で自己着火する仕組みのため、Jet A系の燃料を使用するよう設計・承認されています。
*地域によって呼称や規格がやや異なりますが(Jet A-1など)、ここではまとめてJet Aと呼びます
同じ「燃料」という言葉でくくられていても、AVGASはガソリン留分を、Jet Aは灯油留分を中心に構成されており、性質もかなり違います。揮発しやすさ(揮発性)や、低温でどう変化するか、見た目の色まで。
析出点の違い
析出点(Freezing Point)とは、燃料を冷やして炭化水素の結晶を生じさせたあと、再び温めていったときに、その結晶が完全に消える温度のことです。
水の凝固点のように、その温度で燃料全体が一斉に固まるわけではありません。燃料温度が下がるとまずロウ状の結晶が生じ始め、増えていくとフィルターや配管内の流れを妨げることがあります。
AVGASとJet Aでは、この析出点に大きな差があります。
| 燃料 | 析出点(規格上の上限) |
|---|---|
| AVGAS 100LL | -58℃以下 |
| Jet A | -40℃以下 |
AVGASの析出点はJet Aよりずっと低いため、通常のレシプロ機の巡航高度で問題になることはまずありません。
一方Jet Aを使うタービン機は、高高度を巡航する際に燃料温度が析出点に近づくことがあります。

見た目にも違いがあります。AVGAS 100LLは青色に着色されているのに対し、Jet Aは無色〜薄い黄色をしています。これは単なる識別のためだけではありません。
色分けが安全に直結する理由
レシプロ機にJet Aを、タービン機にAVGASを誤給油してしまう事故は、実際に世界各地で発生しています。色の違いは、そうした誤給油を防ぐための最後の砦でもあります。フューエルサンプで燃料を採取した際は、色が正しいかだけでなく、透明度や濁り、水との分離がないかもあわせて確認します。
ミクスチャーコントロールの原理
ミクスチャーの基本的な役割——燃料と空気の混合比を調整するレバーだということは、エンジン系統の記事で触れた通りです。ここでは、なぜ高度が上がるとリーンにする必要があるのか、その理由に踏み込んでみます。
なぜ高度が上がるとリーンが必要なのか
エンジンが1回の吸気行程で吸い込む空気の体積は、同じ回転数・スロットル位置であれば大きくは変わりません。ですが高度が上がると、同じ体積の中に含まれる空気の質量——つまり酸素の量は減っていきます。
一方で、燃料の供給量は空気の質量が減る割合ほどには減りません。つまり高度を上げていくと、空気の量に対して相対的に燃料が多い状態になっていきます。何もしなければ、混合比はどんどん濃く(リッチ)なっていくわけです。
濃すぎる混合気は燃焼が不完全になり、出力低下やプラグのくすぶりにつながります。そこで、高度に応じて燃料の量を絞り、ちょうどよい混合比に戻す操作がリーニングです。
リーニングの実践
まず前提として、リーニングはどの飛行段階・出力設定でも同じように行ってよいわけではありません。POH(Pilot's Operating Handbook)で認められている条件を確認した上で行います。
具体的な手順は、機種やエンジンによって細かく異なります。よく使われる目安の一つに、排気ガス温度(EGT)を見ながら少しずつミクスチャーを絞っていき、EGTが最も高くなる点(ピーク)を見つけ、そこから少しリッチ側に戻すという方法があります。EGT計を持たない機体では、固定ピッチプロペラのRPMの変化や、エンジンの回転がわずかに粗くなる位置を目安にする方法もあります。
いずれの方法も、あくまで目安の一つです。搭載されている計器や機種によって推奨される手順は異なるため、実際の操作は必ずPOHの手順に従ってください。
訓練で使うようなシンプルな機体では、ミクスチャーレバーはワイヤーで直接キャブレターやインジェクションユニットにつながっている、メカニカルな操作であることがほとんどです。電子制御で自動的に調整してくれるわけではないので、ほんのわずかなレバーの動きが混合比に大きく影響します。
山岳地帯での飛行
夏場、標高の高い山岳地帯を飛行したときの話です。POHの手順通りに、その日の状況に適した燃料流量までミクスチャーを絞っていったのですが、そのレバー位置がほぼカットオフ(燃料遮断)の直前まで来ていて、かなり怖い思いをしました。
もし突発的な揺れが起きてレバーが動いてしまったら、エンジンが止まってしまうんじゃないかと、終始気が気ではなかったのを覚えています。
標高が高いほど地上でもすでに空気が薄いため、この現象は起こりやすくなります。メカニカルな操作だからこそ、レバーのわずかな遊びや振動まで意識する必要がある場面でした。
リーンすぎ・リッチすぎのサイン
高出力設定のまま不適切にリーンにしすぎると、シリンダーヘッド温度(CHT)の上昇やデトネーションのリスクにつながります。さらに混合気が薄くなると、今度は燃焼が安定しなくなり、出力低下やエンジンの粗い作動として現れることもあります。混合比はCHTなど単体の指標だけで判断せず、POHの手順に従って調整することが基本です。
逆にリッチすぎる場合は、燃焼しきれなかった燃料がプラグにカーボンとして付着し、くすぶり(ファウリング)の原因になります。どちらの状態も、長く放置してよいものではありません。
燃料に関するトラブルと対策
ここまで、燃料の種類とミクスチャーの原理を見てきました。最後に、実際の飛行で起こりうる燃料まわりのトラブルを2つ、原因と対策とあわせて整理します。
ベーパーロック(Vapor Lock)
ベーパーロックとは、燃料配管内で燃料が沸騰して気泡が発生し、エンジンへの燃料供給が妨げられる現象です。気泡が生じた部分では燃料の圧力や流量が不安定になり、エンジンの回転が不安定になったり、最悪の場合は止まってしまうこともあります。

液体の沸点は、圧力が下がるほど低くなるという性質があります。燃料配管の中でも、燃料ポンプが燃料を吸い上げる吸込側は圧力が低くなりやすく、そこに熱が加わると燃料が沸騰しやすくなります。
高翼機(セスナなど)の多くは、タンクが翼の中、エンジンより高い位置にあるため、重力だけで燃料を送り込む重力式燃料供給(Gravity Feed)が可能です。
一方、低翼機ではタンクがエンジンより低い位置にあるため、燃料ポンプで燃料を吸い上げる必要があります。低翼機はこの吸込側の低圧区間を持つ構成になりやすいため、結果としてベーパーロックが話題になりやすい傾向があります。

水分混入の原因
フューエルサンプでの確認手順自体は、エンジン系統の記事で説明した通りです。ここでは、そもそもなぜ水が混入するのかという話をします。
一番身近な原因は結露です。タンク内に空気の隙間が多いと、気温差によってタンクの内壁に水滴がつき、燃料の底に溜まっていきます。他にも、給油時に水分が入り込むケースや、タンクキャップのシール劣化からの雨水の侵入なども原因になります。
対策としてよく言われるのが、機体の運用が許す範囲で、駐機中はタンクを満タンにしておくことです。タンク内の空気の体積を減らすことで、結露そのものが起きにくくなります。
まとめ
航空燃料は、種類ごとに析出点や揮発性といった性質が違います。さらに、それを使うエンジンや燃料供給の仕組みも、レシプロ機とタービン機とでは大きく異なります。
AVGASを使うレシプロ機では、空気密度の変化に応じてミクスチャーを手動で調整する必要があり、Jet Aを使うタービン機では、低温時の燃料の性質を管理する必要があります。ベーパーロックや水分混入といったトラブルへの備えも、燃料の性質と機体の設計の両方から考えるべきものです。