はじめに

法規カテゴリーのこの記事では、「技能証明」と「限定」という二つの言葉の関係を整理していきます。
あなたが取得しようとしている資格の種類、等級、限定は何?
って聞かれたときに、スムーズに答えるのは意外と難しいんじゃないでしょうか?

この記事で扱うのは、あくまでパイロット側の資格制度の話です。
技能証明という言葉自体はもう少し広い範囲をカバーしているのですが、その全体像も含めて第1章で整理していきます。

技能証明とは

技能証明、正式には「航空従事者技能証明」という名前です。
実はこれ、パイロットだけのものではありません。整備士の資格も含めた「航空に関わる仕事をする人」全般に与えられる資格の総称が技能証明、というのが正確な位置づけです。
*ちなみに運航管理者などはこの技能証明とは別の資格体系なので、ここには含まれません

その中で、パイロットが取得するものが「操縦士技能証明」です。
この記事ではこれ以降、基本的にこの操縦士技能証明の話を進めていきます。

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航空法 第四章 航空従事者
第四章に技能証明についての法令がまとまっています。

技能証明一覧

技能証明の種類

自家用操縦士技能証明

いわゆるPPL(Private Pilot License)です。
お給料を貰わず、自分や同乗者のために飛ぶための証明になります。趣味で飛びたい人にはここが一つのゴールになりますし、事業用へステップアップしたい人にとっても、最初の関門となる証明です。

事業用操縦士技能証明

CPL(Commercial Pilot License)です。
お給料を貰いながら飛行業務を行うために必要な証明で、ここからが「プロパイロット」のラインとなります。
要求される飛行時間や試験の難易度も、PPLよりひとつ上のステージです。

定期運送用操縦士技能証明

ATPL(Airline Transport Pilot License)は、操縦士技能証明の中で最上位に位置する証明です。深掘りすると別記事が一本書けてしまうボリュームなので、この記事では「一番上にこういう証明がある」という存在紹介にとどめておきます。
簡単に言うと、エアラインの飛行機で機長を務めるために必要な資格です。

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おまけ:准定期運送用操縦士
この3種類のほかに、「准定期運送用操縦士技能証明」という、少し特殊な証明もあります。
これはエアラインで副操縦士として飛行することに特化した資格で、個人で取得することはできず、エアラインの自社養成制度でのみ取得することができます。現在この制度を行っている国内エアラインはJALのみです。
* ANAも以前は行っていましたが、現在は事業用操縦士技能証明に切り替えています

操縦士のフローチャート

限定ってそもそも何?

第1章で少し触れた通り、操縦士技能証明はどのような飛行をしていいかは定めていますが、どんな飛行機を操縦して良いかについては定められていません
その「具体的に何を操縦していいか」を決めるパーツが、「限定」です。

技能証明と限定は常にセットで語られるべきもので、「事業用操縦士技能証明を持っています」だけでは、実はまだ情報として半分です。
技能証明に加えてどんな限定が付いているかまで揃って、初めて「どんな飛行機で、どんな業務ができるのか」が分かります。

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航空法 第25条(技能証明の限定)
国土交通大臣は、前条の定期運送用操縦士、事業用操縦士、自家用操縦士、准定期運送用操縦士、航空機関士、一等航空整備士、二等航空整備士、一等航空運航整備士又は二等航空運航整備士の資格についての技能証明につき、国土交通省令で定めるところにより、航空機の種類についての限定をするものとする。

2 国土交通大臣は、前項の技能証明につき、国土交通省令で定めるところにより、航空機の等級又は型式についての限定をすることができる。

限定には大きく3つの軸があります。一つずつ見ていきましょう。

航空機の種類

飛行機・回転翼航空機・滑空機・飛行船など、航空機の「種類」レベルでの限定です。
一番大きい括りの限定だと思っておけばOKです。

セスナとヘリコプター

航空機の等級

陸上単発・陸上多発・水上単発など、エンジン数や離着陸場所の違いによる限定です。
同じ「飛行機」であっても、単発機で試験に合格したパイロットが操縦できるのは単発機のみで、多発機を操縦するためには、限定変更のための試験に合格する必要があります。

アーチャーとセミノール

航空機の等級の区別自体は、エンジンの種類、つまりピストンかタービンかでも分かれていますが、航空従事者の資格についてはここは区別されていません。

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航空法施行規則 第53条第2項(技能証明の限定)
実地試験に使用される航空機の等級が次の表の上欄に掲げる等級であるときは、限定をする航空機の等級を同表の下欄に掲げる等級とする。

実地試験に使用される航空機の等級 限定をする航空機の等級
陸上単発ピストン機又は陸上単発タービン機 陸上単発ピストン機及び陸上単発タービン機
陸上多発ピストン機又は陸上多発タービン機 陸上多発ピストン機及び陸上多発タービン機
水上単発ピストン機又は水上単発タービン機 水上単発ピストン機及び水上単発タービン機
水上多発ピストン機又は水上多発タービン機 水上多発ピストン機及び水上多発タービン機

つまり、ピストン機で資格を取得しても、タービン機の飛行機も法的には操縦することができます
*あくまで法的に操縦できるという意味で、安全に飛行するためには、エンジン特性に応じた違いを学びなおすことが強く推奨されます。

航空機の型式

構造上2人での操縦を要する航空機などには、その機種ごとに資格が必要になります。これが型式限定です。

エアラインで使用されるほぼすべての飛行機はこの型式限定(機種ごとの資格)が必要であり、同じJALのパイロットでも操縦できる機種はパイロットごとに異なります
違う機種を操縦するためには、機種移行のための教育を受け、試験に合格する必要があります。
*最近は、エアバス機において、ひとつの型式証明で複数の機種を操縦できる制度もあります

計器飛行証明・操縦教育証明

一方でこの章で扱う2つも、自家用・事業用・定期運送用のような独立した技能証明(License)とは少し性格が違います。
英語ではLicenseとRatingという呼び分けがありますが、計器飛行証明と操縦教育証明はどちらも「技能証明に付随する形で取得する証明」という位置づけです。
もちろん試験はきちんと受ける必要があるのですが、ゼロからパイロットの資格を取るのとは少し違う、既存の技能証明があってこそ積み上げられるもの、というイメージです。

ここは少しわかりにくいですが、資格(事業用など)で定められている業務範囲が、さらに厳しい気象条件下や、異なる方式でもできるようになる。というイメージです。

計器飛行証明

計器飛行証明があると、具体的には次の3つが可能になります。

  • 計器飛行方式(IFR)による飛行
  • 計器飛行
  • 計器航法による飛行のうち、定められた距離と時間を超えて行うもの

計器飛行証明がないパイロットは、有視界気象状態(VMC)を前提としたVFRでの飛行しかできません。

操縦教育証明

教官として、他の人に操縦を教えるために必要な証明です。
こちらも技能証明に付随する形の証明ですが、操縦士関連の資格の中でも取得が最も難しいと言っても過言ではない、いわゆる難関資格のひとつです。「自分が飛べる」ことと「人に教えられる」ことは、法律上もきちんと別の資格として扱われている、という点を押さえておけば十分です。

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第34条(計器飛行証明および操縦教育証明)
定期運送用操縦士若しくは准定期運送用操縦士の資格についての技能証明(当該技能証明について限定をされた航空機の種類が国土交通省令で定める航空機の種類であるものに限る。)又は事業用操縦士若しくは自家用操縦士の資格についての技能証明を有する者は、その使用する航空機の種類に係る次に掲げる飛行(以下「計器飛行等」という。)の技能について国土交通大臣の行う計器飛行証明を受けていなければ、計器飛行等を行つてはならない。
~省略~

2 次に掲げる操縦の練習を行う者に対しては、機長としてその使用する航空機を操縦することができる技能証明及び航空身体検査証明を有し、かつ、当該航空機の種類に係る操縦の教育の技能について国土交通大臣の行う操縦教育証明を受けている者(以下「操縦教員」という。)でなければ、操縦の教育を行つてはならない。
~省略~

資格維持のために

ここまで、技能証明や限定をどう「取得するか」を見てきましたが、実はこれらは取ったら終わりというものではありません。
資格を持ち続け、実際に使い続けるためには、別途いくつかの要件を満たし続ける必要があります。

特定操縦技能審査

技能証明を持つパイロットは、飛行する前2年以内に特定操縦技能審査に合格している必要があります。免許自体が失効するわけではないのですが、これに合格していないと、その資格に基づく操縦行為そのものができなくなる、という仕組みです。
実質的に「2年ごとの腕前チェック」だと思っておけばOKです。

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第71条の3(特定操縦技能の審査)
操縦技能証明を有する者は、航空機の操縦に従事するのに必要な知識及び能力であつてその維持について確認することが特に必要であるもの(以下この条において「特定操縦技能」という。)を有するかどうかについて、操縦技能審査員(特定操縦技能の審査を行うのに必要な経験、知識及び能力を有することについて国土交通大臣の認定を受けた者をいう。第4項及び第134条において同じ。)の審査を受け、これに合格していなければ、当該操縦技能証明について限定をされた範囲の航空機について次に掲げる行為を行つてはならない。
~以下、省略~

外部点検

最近の飛行経験

一定期間以内に、決められた回数の離着陸などをこなしていないと、その資格を使った飛行(特に旅客を乗せた飛行など)ができなくなる、という要件です。
ブランクが開いた状態でフライトをしないようにするための要件です。

ここで面白いのが、この要件はシミュレーター(FFS等)でも満たせる場合がある、という点です。
実機を飛ばさなくても、決められた基準を満たしたシミュレーターでの訓練・審査が、実際の飛行経験としてカウントされる仕組みになっています。エアラインのパイロットが定期的にシムトレーニングを受けているのは、この要件を満たす目的も兼ねています。

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第69条(最近の飛行経験)
航空機乗組員(航空機に乗り組んで航空業務を行なう者をいう。以下同じ。)は、国土交通省令で定めるところにより、一定の期間内における一定の飛行経験がないときは、航空運送事業の用に供する航空機の運航に従事し、又は計器飛行、夜間の飛行若しくは第34条第2項の操縦の教育を行つてはならない。

最近の動き:CRM訓練(技能発揮訓練)の義務化

2024年1月に羽田空港で起きた航空機衝突事故を受けて、パイロット間のコミュニケーションに関する訓練、いわゆるCRM(Crew Resource Management)訓練が、自家用操縦士を含む全てのパイロットに義務化されることになりました。
航空法上は「技能発揮訓練」という名前で呼ばれていて、これを修了していないと、管制圏に係る空港から離陸すること自体ができなくなる、という内容です。

航空業界はこういった事故を教訓に多くの規則が作られてきました。
現在存在する多くの規定も過去の事故を教訓にしています。

CRM訓練

まとめ

ここまで、技能証明と限定の関係を一通り見てきました。最後に全体像を整理しておきます。

技能証明は正式には「航空従事者技能証明」という名前で、パイロットが取得するのはその中の「操縦士技能証明」です。
自家用・事業用・定期運送用という3種類があり、業務範囲の幅が段階的に上がっていく構造になっています。
また、すこし毛色の違う資格として「准定期運送用操縦士」という資格もあります。

限定事項とは、技能証明で定められた業務範囲について、それをどのような航空機で行うことができるのかといったことを決めるものでした。
また、計器飛行等を行うために必要な計器飛行証明、操縦教育を行うために必要な操縦教育証明と呼ばれる資格についても紹介しました。

そして、資格は取って終わりではなく、その資格を維持するためにも審査が必要です。
特定操縦技能審査や定められた期間内の飛行経験が求められます。
さらに近年では、CRM訓練(技能発揮訓練)の義務化もされました。

証明・限定・付随する証明・維持のための要件、この4つのレイヤーが組み合わさって、はじめてひとつの操縦士資格として機能しています。