以前の「航法の基礎概念」で、RNAVを紹介したときに「これは特別な航法という扱いで、誰でも使っていいものではない」「別途、許可が必要になる」とお伝えしました。

あのとき「特別な航法」と呼んだRNAVは、実は航空法の中できちんと位置づけられています。
正確には、許容される航法精度が指定された経路や空域で行うRNAV航行が対象です。そしてその仲間は、RNAVだけではありません。
RVSMCAT II/IIIといった航行も、同じ枠組みの中で「特別な方式による航行」としてまとめられ、これらはすべて国土交通大臣の許可を必要とします。

この記事では、これらの航行がなぜ許可制になっているのか、その根拠となる航空法83条の2を軸に整理していきます。RNAV・RVSM・CAT II/IIIを個別に暗記するのではなく、これらに共通する考え方を捉えていきます。
まずは条文を見ていきましょう。

RVSM・カテゴリーII/III・RNAVの3つの特別な航行

航空法83条の2

まず、これらの航行の根拠となる条文を見てみましょう。

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航空法 第八十三条の二(特別な方式による航行)
航空機は、国土交通大臣の許可を受けなければ、他の航空機との垂直方向の間隔を縮小する方式による飛行その他の国土交通省令で定める特別な方式による航行を行つてはならない。

分解して読んでみましょう。

まず「他の航空機との垂直方向の間隔を縮小する方式による飛行」——これがRVSMのことです。
条文が数ある特別な航行の中でRVSMだけを名指ししているのは、この制度が導入された経緯によるものですが、ここでは深く立ち入りません。

ポイントは、RVSMを筆頭に、いくつかの航行がまとめて「特別な方式による航行」として括られているという構造です。
具体的に何が含まれるかは、次のセクションで見ていきます。

次に「国土交通大臣の許可を受けなければ……行つてはならない」。
これが今回の主題です。
これらの航行は、原則として禁止されていて、許可を受けて初めて行える。
裏を返せば、装備があっても、免許を持っていても、許可がなければ飛べないということです。

そしてもう一つ見落とせないのが、許可の対象が「航行」だという点です。
条文は「(特別な方式による)航行を行つてはならない」と書いています。
許可されるのは航空機という「モノ」ではなく、その方式で飛ぶという行為なのです。
この違いは後半で効いてくるので、頭の片隅に置いておいてください。

3つの類型

「特別な方式による航行」の中身は、施行規則で定められています。

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航空法施行規則 第百九十一条の二(抜粋・要約)
法第八十三条の二の国土交通省令で定める特別な方式による航行は、次に掲げるものとする。
一 他の航空機との垂直方向の間隔を縮小する方式による飛行(RVSM航行)
二 カテゴリー二航行
三 カテゴリー三航行
四 許容される航法精度が指定された経路又は空域における広域航法による飛行(RNAV航行)

*読みやすさのため、条文の表現を一部要約しています。

一つずつ見ていきます。

RVSM航行——垂直間隔を縮める

RVSM(Reduced Vertical Separation Minimum) は、航空機どうしの垂直方向の間隔を縮小する航行です。

通常、高高度では航空機どうしの高度差を2,000ftとって安全を確保しています。
これを1,000ftに半分に詰めるのがRVSMです。
対象となるのはFL290からFL410の空域。ここは交通量が多く、間隔を詰めることで使える高度が増え、より多くの機体が効率的に飛べるようになります。

間隔を半分にするということは、その分だけ高度を正確に維持する能力が求められます。
少しの高度のずれが、そのまま安全上の問題に直結するからです。

カテゴリーII/III航行——低視程で着陸する

カテゴリーII 航行・カテゴリーIII 航行は、通常より悪い視程のもとで進入・着陸を行う航行です。

通常のILS進入(カテゴリーI)では、ある高さ(決心高)までに滑走路が見えなければ進入をやり直します。
この決心高やRVR(滑走路視距離)の最低値を引き下げていくのが、カテゴリーII・IIIです。

区分 決心高の目安 RVRの目安
カテゴリーII 30m以上60m未満 300m以上
カテゴリーIII 30m未満(またはなし) 50m以上300m未満

*値は代表的なもの。カテゴリーIIIはさらに細かく区分されます。

カテゴリーIIIまでいくと、ほとんど前が見えない状態で滑走路に降りることになります。そのため、進入から接地までを主に自動操縦(オートランド)で行います。

この精度を出せるかどうかは、機体側だけの話ではありません。飛行場の側にも、それに見合った設備が必要です。
ILSがカテゴリーII/IIIに対応した精度を持っているか、進入灯がその視程条件に合った仕様か、RVRを測る視程計が設置されているか——これらが揃って初めて、カテゴリーII/III運航が成立します。
だからこそ、カテゴリーII/III運航ができる空港は限られています。

RVRの詳しい話は別記事で扱っています。

RNAV航行——地上施設に頼らず経路を飛ぶ

RNAV(Area Navigation/広域航法) は、「航法の基礎概念」でも紹介した、地上の無線施設の位置に縛られずに任意の経路を飛べる航行です。

VORやDMEを使う従来の航法では、経路は地上施設を結んだ線に限られていました。 RNAVは、GPSや複数施設からの電波、慣性航法装置などを組み合わせて自機の位置を高精度で把握するため、施設のない場所を通る効率的な経路を設定できます。

ここで「許容される航法精度が指定された」という条文の表現が効いてきます。 RNAVでは「この経路はこのくらいの精度で飛べること」という性能の基準が経路や空域ごとに決められていて、その精度を満たせる機体・運航でなければ飛べません。

なぜ許可制なのか

ここまで3つの類型を見てきました。垂直間隔を縮める、視程を下げる、地上施設に頼らない。

これらには共通する考え方があります。

安全余裕を環境からシステムへ移す図解

通常の運航は「環境」に余裕を持たせている

まず、ふだんの運航を考えてみましょう。

高高度では高度差を2,000ftとる。
ILS進入では、ある程度以上の視程がなければ降りない。
経路は無線施設を結んだ線に沿う。

これらはすべて、ゆとりのある基準です。
多少の誤差や不確実性があっても安全が保たれるよう、環境の側にあらかじめ余裕を持たせているわけです。

特別な航行は、その余裕を削る

一方、特別な方式による航行は、この余裕を意図的に削っています。

垂直間隔を2,000ftから1,000ftへ。
決心高やRVRの最低値を引き下げる。
施設に縛られない経路を飛ぶ。

いずれも、これまで環境側が吸収してくれていたゆとりを詰める方向です。

余裕を削れば、当然そのぶん誤差やトラブルに弱くなります
高度が少しずれただけで、
前が一瞬見えなかっただけで、
位置の把握が甘かっただけで

通常なら問題にならなかったことが、問題になり得ます。

削った余裕は、別のところで埋める

では、削った余裕をどう埋めるのか。

環境側で持っていた余裕を、今度は機体・人・手順の精度で置き換えます。

  • 機体:高い精度を出せる装備を積み、それを維持できる状態にしておく
  • :乗員・整備士・運航管理者が、その航行に必要な知識と技能を持つ
  • 手順:異常時の対応を含め、実施の手順があらかじめ定められている

この3つが揃うことで、削った余裕が埋め合わされ、通常と同じ安全水準が保たれます。
安全余裕を「環境」から「システム」へ移している——これが特別な方式による航行に共通する考え方です。

許可の基準

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航空法施行規則 第百九十一条の四(要約)
法第八十三条の二の許可は、次の基準に適合するものについて行う。
一 航空機が必要な性能及び装置を有していること
二 航空機乗組員・整備従事者・運航管理者が必要な知識及び能力を有していること
三 実施要領が適切に定められていること
四 その他、航行の安全を確保するために必要な措置が講じられていること

先ほどの「機体・人・手順」は、そのまま一号・二号・三号に対応しています。

許可制になっているのは、これらをバラバラにではなく、まとめて確認する必要があるからです。
装備だけ立派でも、それを扱う人の訓練が伴わなければ意味がない。
人が優秀でも、装備がなければ精度は出ない。
手順が曖昧なら、異常時に破綻する。

機体・人・手順がひとつのパッケージとして揃っていること——これを確かめるのが、83条の2の許可です。

許可は誰に対して与えられるのか

許可は、機体×運航者の組み合わせに対して与えられます。
同じ機体でも、運航する人・組織が変われば、あらためて許可が必要です。

ここで押さえておきたいのが、先ほど触れた「許可の対象は航行である」という点です。
RNAVの装備がついている機体でも、その装備だけで自動的に飛べるわけではありません。
その機体で、その方式の航行を行うことについて、許可を受けて初めて飛べます。
技能証明(操縦士のライセンス)を持っていることと、特別な方式による航行の許可を受けていることは、別の話です。

個人で所有する機体なら、機体の所有者・運航者として自分で申請することになります。
エアラインのような事業者の場合は、会社が運航者として許可を受け、その機体・その乗員による運航が許可の範囲に含まれる形になります。

いずれにしても、免許を取れば自動的に飛べるようになる、という性質のものではありません

申請の手続きや審査の詳細には、ここでは触れませんが、押さえておくべきは、許可は機体・運航者ごとに個別に与えられるものであり、先ほど見た「機体・人・手順」の3つが、その組み合わせにおいて確認される、という点です。

まとめ

RNAV・RVSM・カテゴリーII/III——これらは一見バラバラな制度に見えますが、根拠は同じ航空法83条の2です。

通常の運航は、高度間隔や視程、経路の自由度といった面で環境側に余裕を持たせています。
特別な方式による航行は、その余裕を意図的に削り、代わりに機体の性能・乗員や整備の技能・実施の手順という3つの精度でそれを埋め合わせます。

だからこそ、許可はこの3つをすべて満たしているか確認するものになっています。

免許を取得しても、装備を積んでも、それだけで飛べるわけではありません。
機体×運航者という組み合わせに対して、航行そのものが許可される——この一点を押さえておけば、RNAVもRVSMもカテゴリーII/IIIも、同じ枠組みの中で理解できるはずです。