以前の記事で、IFRで飛行していても見張りの義務は免除されないということを言いました。
今回は、そこで言及した「見張りの義務」について解説していきます。
航行中、パイロットには他の航空機や物件と衝突しないよう見張りをする義務があります。
このことは航空法でしっかりと明文化されています。
この記事では、見張りの義務が何を根拠とし、VFRとIFRそれぞれの状況でどのように適用されるかを整理します。
条文を読む
見張りの義務は、航空法第71条の2に定められています。
第71条の2
航空機の操縦を行っている者(航空機の操縦の練習をし又は計器飛行等の練習をするためその操縦を行っている場合で、その練習を監督する者が同乗しているときは、その者)は、航空機の航行中は、第96条第1項の規定による国土交通大臣の指示に従っている航行であるとないとにかかわらず、当該航空機外の物件を視認できない気象状態の下にある場合を除き、他の航空機その他の物件と衝突しないように見張りをしなければならない。
条文の構造を整理すると、義務を負う主体・義務が生じる場面・免除条件の3つで成り立っています。
それぞれについて以降の章で確認しています。
見張りの義務を負う者
条文の冒頭にある括弧書きに注目します。
原則として義務を負うのは「航空機の操縦を行っている者です」です。
機長ではなく、操縦桿を握っているパイロットが対象になります。
ただし例外があります。操縦の練習または計器飛行等の練習のために操縦している場合で、かつその練習を監督するものが同乗しているときは、見張りの義務は操縦者ではなく監督者に移ります。
訓練生が操縦桿を握っている訓練飛行では、教官(監督者)が見張りの義務を負うということです。
監督者への義務の移行は、あくまで「練習のために操縦している場合」かつ「監督者が同乗している場合」に限られます。
監督者が同乗していない単独飛行では、操縦者本人が義務を負います。
VFRにおける見張り
VFRで飛行するパイロットにとって、見張りは飛行の根幹です。
管制機関によるトラフィックセパレーション(他機との間隔設定)が保証されないVFRでは、衝突回避の責任はパイロット自身にあります。
この考え方をSee and Avoidと呼びます。みて、避ける。それだけのことですが、実際に飛行機を安定させて飛ばしたり、後方作業を行ったりしながらだと、見張りまで意識が回らなくなりがちで訓練が必要な技術です。
コリジョンコースの見え方
See and Avoidの難しさのひとつが、コリジョンコース(衝突コース)にある航空機の視覚的な特性です。
このまま飛行するとぶつかる。つまり飛行コースが1点で交わるように飛行している航空機は、自機のウィンドシールド上でほぼ動かないように見えます。
通常、飛行中の他機は視野の中を横切るように動くため「動くもの」として認識できますが、コリジョンコースにある機体だけは相対的な角度変化がなく、ただ大きくなっていくだけです。
人間の視野はこの「動かない物体」を捉えにくく、気づいたときには回避が間に合わないケースがあります。
飛行機は高速で飛行しているため、普段からしっかりと見張りをしていないと、気づいたときには手遅れになってしまいます。

*コリジョンコースにある航空機は、ウィンドシールド上の位置がほぼ変わらないまま拡大していきます。
IFRにおける見張り
IFRで飛行中であっても、見張りの義務は免除されません。
条文が定める免除条件は「当該航空機外の物件を視認できない気象状態のもとにある場合」であり、これはIMC(計器気象状態)とイコールではありません。
条文が言う「視認できない気象状態」とは、文字通り雲の中にいて何も見えない状況のことです。
IMCであっても、雲と雲の間を飛んでいれば他機や地上の物件を視認できる場面は十分にあります。
そのような状況では、IFRで飛行中であっても見張りの義務は生きています。
管制機関はIFR機に対してトラフィックセパレーションを提供しますが、それはあくまで管制官が把握しているトラフィックに対してです。
VFR機や管制のレーダーに映らない機体が視界内に入ってくる可能性はゼロではありません。「IFRだから管制官に任せておけばいい」という認識は、法的には運航上も正しくありません。
視認できる状況では、飛行方式に関わらず自分の目で安全を確認する。これが見張り義務の本質です。
IMCであることと「視認できない気象状態」は同じではありません。
雲と雲の間など、IMC下でも視認できる状況では見張りの義務が残ります。
まとめ
- 見張りの義務は航空法第71条の2に定められており、航行中(地上移動中を含む)が対象となる。
- 原則として義務を負うのは操縦を行っている者だが、練習飛行で監督者が同乗している場合は監督者に義務が移る
- 免除されるのは「航空機外の物件を視認できない気象状態の下にある場合」のみであり、IMCであることとは別の話
- VFRでは See and Avoid がトラフィック回避の基本であり、コリジョンコースにある航空機は視野内でほぼ動かないという特性に注意が必要
- IFRで飛行中であっても、視認できる状況では見張りの義務が残る
- 管制によるセパレーションは見張り義務の代替にはならない