はじめに
飛行機は複数のシステムが連携して動く乗り物です。
エンジン・電気・燃料・操縦・計器……それぞれが独立したシステムとして存在しながら、お互いに影響を与え合っています。

前の記事では飛行機を構成するパーツとして Fuselage・Wing・Powerplant などを紹介しました。
あれは飛行機の「形」の話でした。この記事では視点を変えて、飛行機の「機能」=システムの話をします。
各システムの細かい仕組みはそれぞれの専門記事に委ねるとして、ここでは「どんなシステムがあって、それぞれ何を勉強するのか」という地図を渡すことを目的にします。
飛行機のエネルギーはエンジンから
飛行機に搭載されている様々なシステムは、何らかのエネルギーを使って動いています。そのエネルギーの源泉は、基本的にすべてエンジンです。
エンジンが動くことで、主に3種類のエネルギーが作り出されます。
電気(Electrical)
オルタネーターと呼ばれる発電機がエンジンの回転を利用して電気を作ります。コックピットの計器類・通信機器・航行灯・客室の照明まで、飛行機の中で電気を使っていないシステムを探す方が難しいくらい、電気はあらゆる場所に供給されています。
近年はさらにその傾向が強まっており、従来は油圧や空気圧で動かしていたシステムを電気に置き換える設計も増えています。整備性の向上や重量削減が主な理由で、Boeing 787 はその代表例として知られています。

油圧(Hydraulic)
エンジンで駆動されたポンプが作り出した高圧の油を使って、各装置を動かす仕組みです。人間の力では到底動かせないような大きな舵面やギア・フラップを、油圧があることで軽い操作力で動かすことができます。
大型機では操縦系統そのものにも油圧が使われており、パイロットの入力を油圧が倍力してコントロールサーフェスに伝えています。
ただし、小型機の操縦系統は例外です。
エルロン・エレベーター・ラダーはパイロットの操作がワイヤーやロッドといった機械的なリンケージを通じてそのまま舵面に伝わる仕組みになっており、エンジン由来のエネルギーは介在しません。
空気圧(Pneumatic)
エンジンの圧縮機から抽気した高圧の空気を利用します。客室の与圧や空調、翼の前縁への温風供給による防除氷など、旅客機で快適・安全に飛ぶために欠かせない機能の多くが空気圧で賄われています。

大型機と小型機の違い
ここまでの話を聞いて、「思ったより複雑だな」と感じた方もいるかもしれません。ただ、これはあくまで大型機の話です。最初に乗る小型レシプロ機は、もう少しシンプルです。
大型旅客機では電気・油圧・空気圧の3系統が複雑に絡み合い、それぞれにバックアップが用意されています。システムの冗長性を確保するために、同じ機能を持つ系統が2系統・3系統と並列に存在することも珍しくありません。
一方、訓練でよく使われるセスナやパイパーのような小型レシプロ機では、油圧と空気圧はほとんど登場しません。ブレーキに簡単な油圧が使われている程度で、操縦系統は前述の機械式リンケージ、フラップは電動モーターで動かすものが多いです。電気系統もバッテリーとオルタネーターで構成されたシンプルな構造です。

つまり、最初に学ぶべきシステムの範囲はそれほど広くありません。まず小型機のシステムをしっかり理解した上で、大型機特有の複雑さは段階的に学んでいけば十分です。
各システムで何を勉強するのか
ここからは、飛行機を構成する各システムを紹介していきます。繰り返しになりますが、この記事では各システムの詳細な仕組みには踏み込みません。「何があるか」と「何を勉強するのか」の地図を渡すことが目的です。
エンジン系統(Powerplant)
飛行機のすべてのエネルギーを生み出すシステムです。エンジン単体の勉強で終わりではなく、エンジンを動かすために必要なサブシステムが複数あり、それぞれを理解する必要があります。
- 燃料系統:どこに燃料を貯めて、どう供給するか
- 点火系統:どうやって燃料に火をつけるか
- 潤滑系統:エンジン内部の摩擦を減らすオイルの流れ
- 冷却系統:エンジンの熱をどう逃がすか
- 吸排気系統:空気をどう取り込み、排気をどう出すか
これだけ見ると覚えることが多そうですが、それぞれの役割自体はシンプルです。「なぜそのシステムが必要か」という理由から入ると理解しやすくなります。
電気系統(Electrical System)
エンジンが動いている間はオルタネーターが発電し、停止中や発電量が不足しているときはバッテリーが補います。
勉強の中心になるのは、「どうやって電気を作るか」「どこに供給されるか」「エンジンが止まったとき何が残るか」の3点です。
特に3点目は重要で、エンジンが止まった状況でもバッテリーが残っていれば一定時間は電気系統が生きています。どのシステムが電気依存で、バッテリーのみでは何分間動くのかを把握しておくことが、緊急時の対応につながります。
操縦系統(Flight Controls)
エルロン・エレベーター・ラダーの主操縦翼面と、フラップなどの補助翼面から構成されます。小型機では機械式リンケージが基本なので、メカニカルな仕組み自体はシンプルです。勉強の中心は「各操縦翼面を動かしたとき、飛行機にどんな力が働くか」という力学的な理解になります。
舵面の動きと機体の挙動を結びつけて考えられるようになることがゴールです。
与圧・空調系統(Environmental System)
小型レシプロ機に与圧はありませんので、空調系統の勉強が主となりますが、どこから空気を取り込み(インレットの位置)、どうやって適切な温度に調整して客室に供給するかの流れを確認します。
特に注意が必要なのが一酸化炭素のリスクです。暖かい空気を作るためにエンジンの排熱を利用しているため、排気管に亀裂が入ると一酸化炭素が混入する可能性があります。
検知器の有無や対処手順も合わせて確認しておくべきポイントです。
計器・航法系統(Instruments / Avionics)
ピトー静圧系統・ジャイロ系統・通信航法機器の3つが柱です。それぞれ作動原理が異なり、電源も異なります。「この計器が使えなくなったとき、何が原因として考えられるか」を逆引きで考えられるようになることが勉強のゴールです。
この計器はあくまで例で、機種などによって異なります
どのシステムを学ぶ上でも、共通して意識してほしいことがあります。それはバックアップの有無と内容を確認することです。あるシステムが使えなくなったとき、代替手段はあるのか。あるとすれば何がトリガーで切り替わるのか。こうした視点を持ちながら勉強すると、単なる暗記ではなく「システムのつながり」として理解できるようになります。
航空機の設計思想
各システムを個別に学んでいくと、あることに気づきます。
どのシステムにも必ずバックアップがあり、一つが壊れても致命的な結果にならないよう、丁寧に設計されているということです。これは偶然ではなく、航空機の設計に根付いた思想によるものです。
かつての航空機設計は「いかに壊れないか」に注力していました。しかし部品は必ず壊れます。どれだけ高品質な部品を使っても、使用時間が積み重なれば劣化は避けられません。
この現実を受け入れた上で、近年の設計思想は「壊れたときにどう安全を担保するか」へとシフトしています。
その考え方を体現しているのが、以下の3つの概念です。
Fail-Safe(フェイルセーフ)
システムが故障したとき、被害が最小限に収まるよう設計するという考え方です。
「壊れないようにする」ではなく、「壊れても安全側に移行できるようにする」という発想の転換がポイントです。
- 油圧が失われてもギアを自重で降下させる重力降下装置
- 回路に異常な電流が流れたときに自動で遮断するサーキットブレーカー
- エンジン火災時に燃料供給を遮断する機構 etc.....
「壊れたときの逃げ道」があらかじめ設計に組み込まれています。
Redundancy(冗長性)
同じ機能を複数の系統で持たせることで、一つが失われても機能を維持できるようにする考え方です。
双発・四発機はエンジン自体が複数搭載されていますし、発電機・油圧系統・ピトー管・無線機に至るまで、重要なシステムはほぼ例外なく複数系統が並列に存在します。
一つ壊れたくらいでは致命的な影響が出ないよう、最初から余裕が設計に織り込まれています。
Fool-proof(フールプルーフ)
そもそも誤操作が起きにくい設計にするという考え方です。
ギアレバーとフラップレバーの形状が異なるのは有名な例で、手探りでも間違えないよう形状で区別されています。また、フラップが離陸形態に設定されていないまま離陸しようとすると警報が鳴る離陸警報システムや、地上走行中にギアが誤って格納されないよう機体に荷重がかかっている間はギアを上げられないようにするWeight-on-Wheels機構なども同じ発想です。飛行中にスラストリバーサーが誤作動しないよう地上でのみ作動を許可する機構も然りです。
どれだけ優秀なパイロットでも、疲労や焦りで判断力が落ちることはあります。
そのような状況でもミスが起きにくい設計を目指すのがFool-proofの本質です。

なお、これらはあくまで設計側の工夫です。
どれだけ優れた設計でも、それを運用するパイロット側の要因——疲労・注意分散・状況認識の低下など——が事故につながるケースは後を絶ちません。
Human Factors(人的要因)と呼ばれるこの分野については、別の記事で改めて扱います。