はじめに

「空域の概要」の記事で、日本の空域は管制区・管制圏・情報圏という管制空域と、非管制空域に分けられることを整理しました。

ただ、空にはこれらとは別の軸で、特定の目的のために飛行が規制されている空域があります。法律で直接「飛んではいけない」と定められている区域から、入るのに調整や連絡が必要な空域まで、さまざまです。

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この記事で扱う範囲
この記事は航空機(有人機)の話に絞ります。ドローン(無人航空機)に固有の飛行禁止空域や、防空識別圏(ADIZ)は扱いません。管制空域そのものの話は「空域の概要」をご覧ください。

飛行規制空域を理解する4つの視点

種類が多く名前も似ているので、名前だけで覚えようとすると混乱します。そこで、この記事では次の4つの視点で各空域を見ていきます。

  • 誰が使うのか、何を守るのか(自衛隊、民間の訓練機、保護される地上施設など)
  • 何のために使うのか(警備、射撃、訓練・試験など)
  • いつ有効なのか(常時か、使用時間中だけか)
  • 部外機はどう扱われるのか(飛行禁止か、許可が必要か、調整・連絡が必要か)

特に大事なのは「いつ有効なのか」です。チャートに空域が描かれていることと、いま実際に使われていることは別の話です。
この視点は、飛行前の確認の話で改めて登場します。

この記事では、部外機の入りにくい空域から順に紹介していきます。法律上の強さで一列に並べられるものではないので、あくまで整理のための目安と考えてください。

飛行規制空域の全体マップ

禁止区域・制限区域

まずは、法律により直接、飛行の禁止や条件付きの禁止が定められる区域からです。部外機にとって最も入りにくい部類の空域です。

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航空法 第80条(飛行の禁止区域)
航空機は、国土交通省令で定める航空機の飛行に関し危険を生ずるおそれがある区域の上空を飛行してはならない。但し、国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。

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条文のポイント
原則は「飛行してはならない」。但し書きで「国土交通大臣の許可を受ければ飛べる」という構造です。具体的にどこが対象になるかは条文には書かれておらず、施行規則と告示で「飛行禁止区域」と「飛行制限区域」が指定されます。

  • 飛行禁止区域:飛行を全面的に禁止する区域
  • 飛行制限区域:告示された高度や範囲など、一定の条件の下に飛行を禁止する区域

4つの視点で見ると、これは誰かが空域を使うというより、地上の施設などを危険から守るために設定される区域です。有効なのは原則として常時。部外機の扱いは、飛行禁止区域では大臣の許可がない限り飛行できず、飛行制限区域では告示された条件に該当する飛行が、同じく許可がない限り禁止されます。

現在指定されている区域

実は、飛行禁止区域は現在1つも指定されていません(2026年7月時点)。

飛行制限区域は、次の3か所が指定されています。

  • 福島第一原子力発電所の周辺:半径3km以内、5,000ft以下
  • 青森県つがる市富萢町の周辺:半径6kmの円の西側半分、FL190以下
  • 京都府京丹後市丹後町の周辺:半径6kmの円の北側半分、FL190以下

区域の数や範囲は変わることがあるので、最新の情報は必ずAIPで確認してください。

飛行制限区域の立体構造

恒常的な区域だけではない

禁止区域・制限区域は「3か所だけ覚えればOK」とはいきません。国際会議の開催や要人の往来など、警備上の理由で期間限定の飛行制限が設定されることがあるからです。

こうした一時的な制限はチャートには描かれておらず、NOTAMなどで周知されます。飛行前の情報収集については、最後の章で改めて整理します。

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「大臣の許可」と「管制承認」は別物
80条但し書きの許可は、国土交通大臣が行うものです。管制機関から受ける管制承認とは別の手続きであり、管制承認を受けたことは制限区域を飛行する許可にはなりません。

射撃訓練空域

射撃訓練空域は、自衛隊や米軍が射撃などの訓練を行うために設定される空域です。

それぞれの空域には「R-144」や「W-172」のように、アルファベットと数字を組み合わせた名称が付けられています。

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記号で法的区分を判断しない
「R」が付いていても、3章で扱った航空法80条の飛行制限区域とは別物です。名称の記号はあくまで空域を識別するためのもので、そこから規制の法的な性格はわかりません。

この空域は、3章の禁止区域・制限区域とは仕組みが異なります。法律で飛行そのものが禁止されるのではなく、原則として、使用時間中は当該区域内の飛行に対する管制承認が発出されません。IFR機は管制承認に従って飛行するため、承認が出ない以上、この空域を経路として使うことができません。

VFR機に求められる回避や情報入手などの取り扱いは、区域ごとにAIPやNOTAMの記載に従います。

使用されていない時間帯は、射撃訓練空域としての制約はかかりません。使用時間はAIPで公示されており、当日の使用状況はNOTAMなどで確認します。

射撃訓練空域の使用中と使用外

4つの視点で見ると、使うのは自衛隊や米軍、目的は射撃などの訓練、有効なのは公示された使用時間中、部外機のうちIFR機は使用時間中は管制承認が出ないため飛行できない、となります。

訓練試験空域

訓練試験空域は、操縦訓練や試験飛行など、通常の航行とは違う飛び方をする航空機のために設定された空域です。曲技飛行のように大きく高度や針路が変わる飛行を安全に行えるよう、空域の使用調整や交通情報の共有を行いながら使われています。

訓練中のみなさんにとっては、この記事の中で一番身近な空域かもしれません。民間訓練試験空域と自衛隊の訓練試験空域に分けて見ていきます。

民間訓練試験空域

民間訓練試験空域には、「TOHOKU AREA (TH) 12-1」のように、地域名と番号を組み合わせた名称が付けられています。

この空域との関わり方は、立場によって2つに分かれます。

空域を使って訓練する場合は、航空交通管理センター(ATMセンター)に訓練試験等計画を提出し、承認を得る必要があります。さらに、空域ごとに指定されている管制機関等に連絡し、入出域時刻などを通報しながら、周辺の交通情報の収集に努めます。

空域の付近をVFRで通過する場合は、飛行前にあらかじめ空域の使用状況を確認したうえで、その空域の航空交通情報を提供している機関に連絡します。他の管制機関から指示を受けている場合や、緊急の場合はこの限りではありません。

自衛隊訓練試験空域

自衛隊の訓練試験空域は、AIP上、低高度と高高度の2つに区分されていて、名称の付け方も部外機の取り扱いも異なります。

  • 低高度訓練試験空域:「Area 1」のように数字で表される
  • 高高度訓練試験空域:「Area A」のようにアルファベットで表される

低高度訓練試験空域は、部外機が通過するための事前の調整までは求められていません。ただし、空域内を飛行する際は、無線により他機の情報の入手に努める必要があります。

高高度訓練試験空域は扱いが厳しく、部外機は事前の調整なしに飛行することはできません。自衛隊機以外の航空機が訓練・試験のためにこの空域を使う場合も、使用統制機関(その空域の使用状況を管理し、関係する航空機との調整を行う機関)との調整が必要です。

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やむを得ず入域する場合
緊急事態や雷雲回避など、やむを得ない理由で高高度訓練試験空域に入域するときは、緊急機であれば121.5MHzなどの緊急周波数で、それ以外の航空機であれば公示された使用統制機関に、その旨を報告します。

超音速飛行空域と回廊

自衛隊関連では、このほかに超音速飛行空域と回廊(コリドー)があります。

超音速飛行空域は、その名のとおり自衛隊機が超音速飛行を行うための空域です。衝撃波の影響もあり、洋上に設定されています。

回廊は、自衛隊の訓練機・試験機が訓練空域と基地の間などを行き来するために設定された、経路状の空域です。部外機は、管制区管制所により許可された場合を除き、飛行することはできません。

飛行回避が求められる空域

最後は、規制としては最も緩やかな部類の空域です。ここまで見てきた空域の多くは、射撃や訓練といった危険な活動から航空機を守る向きの規制でした。この章の空域は逆で、万一の墜落や事故から地上の施設を守ることを目的としています。

代表的なのは、原子力施設の上空とコンビナートの上空です。航空法80条に基づく法的な禁止・制限とは異なり、運用上の要請として、上空の飛行をできる限り避けるよう求められているものです。

法律で飛行が禁止されているわけではない、という点が3章との違いです。同じ「原子力施設の上空」でも、福島第一原子力発電所の周辺だけは航空法80条に基づく飛行制限区域として指定されており、法的な性格がまったく異なります。

4つの視点で見ると、目的は地上施設の保護、有効なのは常時、部外機は飛行を避けるよう求められる(法的な禁止ではない)、となります。

飛行前にどう確認するか

ここまで見てきたとおり、飛行規制空域は種類によって根拠も部外機の扱いもさまざまです。ただ、パイロットが飛行前にやることは共通しています。経路の周りにどんな空域があるかを知り、それがいま使われているかを確かめることです。

確認に使う資料は、役割で分けると整理しやすくなります。

  • 航空図:経路周辺のどこに規制空域があるか、位置関係を把握する
  • AIP・AIP SUP:各空域の範囲・高度・使用時間・連絡先といった基本情報と、一定期間続く変更を確認する
  • NOTAM:臨時の設定や変更、当日公示されている活動を確認する
  • 関係機関への照会:必要に応じて、実際の使用状況を確認する

流れとしては、まず航空図で経路と空域の位置関係をつかみ、かかりそうな空域があればAIPでその空域の条件を調べ、NOTAMで当日の状況を押さえます。訓練試験空域のように使用状況が動く空域では、必要に応じて関係機関に照会するところまでが飛行前の準備です。

飛行前確認の流れ

まとめ

日本の飛行規制空域を、部外機の入りにくい順に見てきました。最後に整理しておきます。

空域 部外機の扱い
飛行禁止区域 大臣の許可がない限り飛行禁止
飛行制限区域 告示された条件に該当する飛行は許可がない限り禁止
射撃訓練空域 使用時間中はIFR機への管制承認が出ない
民間訓練試験空域 使用状況を確認し情報提供機関に連絡
自衛隊訓練試験空域(低高度) 事前調整は不要、無線で他機情報を入手
自衛隊訓練試験空域(高高度) 事前調整なしに飛行不可
回廊(コリドー) 管制区管制所の許可がなければ飛行不可
原子力施設・コンビナート上空 飛行をできる限り避ける

名前は似ているのに、根拠も効き方もバラバラ。ややこしいですが、「誰が・何のために使い、いつ有効で、部外機はどう扱われるか」という視点さえ持っておけば、初めて見る空域でも整理して向き合えるはずです。

そして実際のフライトでは、この知識は「経路の周りに何があるか、いま使われているか」を飛行前に確認する行動につながって、はじめて意味を持ちます。