
タワーとの交信は、YouTubeなどネット上にたくさんの実例があります。一方でレディオとの交信は、探してもほとんど見つかりません。
無線通信の基礎では「誰と話しているか」を、管制機関の種類では「その相手が何者か」を見てきました。今回はその続きとして、実際に情報圏(レディオ空港)を飛ぶとき、無線でどんなやり取りが交わされるのかを見ていきます。
この記事では、VFR(有視界飛行方式)で地方の空港を離陸して場周経路を一周し、また同じ滑走路に戻ってくるという場面を例にします。IFR機への管制承認の中継など、AFISのもう一つの側面はここでは扱いません。
情報圏そのものの定義や、レディオ・情報官の法的な位置づけは、すでにこちらで扱いました。ここではその内容を前提として、実際の交信の流れに絞って見ていきます。
なお、これから紹介する交信のうち、レディオ側の用語は規程で定められた定型ですが、パイロット側の言い回しは一言一句決まっているわけではありません。ここで紹介するのはあくまで一例で、訓練所や空港の運用によって多少変わります。大事なのは決まり文句を暗記することではなく、位置と意図が正確に伝わることです。
出発〜離陸まで
エンジンを始動する前
レディオ空港には基本的にATISがありません。
まずレディオに天気情報をもらうところから始まります。ここは情報をもらう場面なので、「Request」を使います。
パイロット:Wakkanai Radio, JA12AB, request latest weather.
レディオ:JA12AB, wind 250 at 6, temperature 18, QNH 2992.
パイロット:QNH 2992, JA12AB.
全部の情報を受け取ったら、リードバックするのはQNHだけです。風向風速や気温まで復唱する必要はありません。
このあと、使用滑走路のブリーフィングなど地上での準備を済ませてエンジンを始動します(このタイミングは機体や訓練所によって多少差があります)。
地上走行を始めるときも、まずはレディオに情報をもらいます。
パイロット:Wakkanai Radio, JA12AB, request taxi and departure information.
レディオ:JA12AB, using runway 26, report ready for departure.
使用滑走路がわかったら、そこから先の地上走行は、公示された経路や標識を踏まえてパイロット自身が判断し、レディオに伝えます。
パイロット:Taxiing to holding point runway 26, JA12AB.
同じ「地上走行」の場面でも、使用滑走路のような情報はもらう(Request)、自分がどう動くかは伝える、という2つの役割が混ざっています。 滑走路手前の待機位置まで進んだら、離陸の意図を伝えます。
パイロット:Wakkanai Radio, JA12AB, ready for departure runway 26.
レディオ:JA12AB, wind 260 at 8, runway 26, runway is clear.
パイロット:Runway 26, runway is clear, JA12AB.
「Runway is clear(滑走路はクリアです)」——管制圏のタワーが出す「Cleared for takeoff」と似たタイミングで発せられますが、意味は違います。これは、滑走路上に他の航空機や障害物の報告がないという情報であって、離着陸の許可ではありません。周辺の空域や進入経路まで安全だと保証するものでもなく、実際に安全かどうかを目視で確認し、離陸するかどうかを判断するのはパイロット自身です。

実際、着陸して滑走路上を走行していた航空機の存在をレディオが見落とし、別の航空機に誤って「Runway is clear」を伝えてしまった重大インシデントも起きています。レディオからの情報だけに頼らず、他機の交信を聴取し、自分の目でも確認する——この積み重ねが、事故を防ぐための最後の砦です。
場周経路〜着陸・滑走路離脱
離陸したら、場周経路に沿って飛びながら、要所で自分の位置をレディオに伝えていきます。ダウンウィンド・ベース・ファイナルといった位置通報(ポジションレポート)です。タイミングや言い方はタワー空港と同じで、違うのは指示されて動くか、情報を受け取って自分で判断するか、という一点だけです。
パイロット:Wakkanai Radio, JA12AB, downwind runway 26.
レディオ:JA12AB, wind 260 at 8, traffic not reported.
ベース・ファイナルでも同様に位置通報が続き、着陸前に改めて「Runway is clear」を受け取ります。
パイロット:Wakkanai Radio, JA12AB, final runway 26.
レディオ:JA12AB, wind 260 at 9, runway 26, runway is clear.
パイロット:Runway 26, runway is clear, JA12AB.
ここでも、情報を受け取り、目視で確認し、着陸するかどうかは自分で判断する——出発時と同じ構造です。
着陸後は、滑走路を離脱したことを伝えます。
パイロット:Wakkanai Radio, JA12AB, runway vacated, taxi to apron.
まとめ
今回見てきたやり取りで、レディオ側の発話は規程で決まった定型でしたが、パイロット側の言葉遣いはタワー空港とほとんど変わりません。変わるのは、その情報を許可とは受け取らず、他機の交信や目視で自ら安全を確かめたうえで、離着陸を判断するところです。