はじめに

無線通信の基礎で見た交信の流れをおさらいすると、デリバリー→グラウンド→タワー→デパーチャー→ACC→アプローチと、フライト中に交信相手はどんどん変わっていきます。 前回の「管制機関の種類」では、この交信相手たちが何者なのかを整理しました。管制業務を行う権限を持つのは誰か、管制官と情報官はどう違うのか、TCAという例外まで含めて扱っています。

そのなかで、管制業務は飛行の段階によって飛行場管制業務・ターミナル・レーダー管制業務・航空路管制業務の3つに分かれる、という話にも軽く触れました。ただ、それぞれが具体的に何をしているのかまでは踏み込みませんでした。

今回はその続きです。管制業務の中身を掘り下げていきます。

「タワーと話しているのだから、その内容はすべてタワーの仕事のはず」と考えていると、実際の運航で戸惑う場面があります。誰と交信しているかと、その内容がどの管制業務として処理されているかは、必ずしも同じではないからです。

この記事では、管制業務の正式な区分を一通り整理したうえで、飛行場管制業務・進入管制業務・航空路管制業務がそれぞれ何をしているのかを見ていきます。最後には、その思い込みが崩れる具体例も紹介します。

2. 管制業務にはどんな種類があるか

国土交通省の資料では、管制業務は次の5つに整理されています。

管制業務 何を対象にしているか
飛行場管制業務 空港周辺(管制圏内)で離着陸・地上走行する機体
進入管制業務 進入管制区を出発・到着する機体。順序・経路・上昇/降下の指定など
ターミナル・レーダー管制業務 レーダーを用いて行う進入管制業務
着陸誘導管制業務 レーダーで着陸機のコース・高度を誘導する業務
航空路管制業務 空港間を巡航中の機体

3. 飛行場管制業務

飛行場管制業務は、空港の管制塔内にある飛行場管制所で行われます。その中でも役割は分かれていて、離着陸を扱う飛行場管制席(タワー)と、地上走行を扱う地上管制席(グラウンド)に分担されています(前回の記事で見た通り、空港の規模によってはこの2つが同じポジションで兼務されることもあります)。

対象になるのは、離着陸する機体、飛行場周辺を飛行する機体、そして地上を走行する機体の3種類です。管轄する範囲はおおよそ管制圏内、空港を中心に半径9km程度になります。

滑走路は一度に1機しか使えません。同時に2機が使おうとすれば、それだけで衝突のリスクが生まれます。だからタワーは、誰がいつ滑走路を使うかを一機ずつ決めて、順番に許可を出していきます。地上を走行しているときも同じで、複数の機体が交差点で鉢合わせしないよう、走行する経路をグラウンドが指定します。

交信で聞こえてくる言葉にすると、次のようなイメージです。

交信例 内容
Taxi to runway 34 via Alpha, Bravo 地上走行の経路指示
Line up and wait runway 34 滑走路に入って待機する指示
Cleared for takeoff runway 34 離陸の許可
Cleared to land runway 34 着陸の許可

4. 進入管制業務とターミナル・レーダー管制業務

進入管制業務とは

進入管制業務は、進入管制区と呼ばれる空域を出発・到着する機体に対して行われる管制業務です。進入管制区の範囲や形状は空港ごとに異なり、飛行場管制業務が対象とする管制圏よりもずっと広くなります。(参考までに、レーダーを使ったターミナル・レーダー管制業務については、国土交通省が空港からおおよそ100km圏内を目安として説明しています。)

飛行場周辺を出たばかりの出発機は、それぞれ別々の方向に向かって上昇していきます。逆に到着機は、あちこちの方向から1本の滑走路に向かって集まってきます。どちらも、進行方向・高度・タイミングがバラバラな機体を安全な間隔で捌く必要があるという点は共通しています。

そこで進入管制業務は、出発機に対しては上昇の指示と方向別の誘導を、到着機に対しては経路の指定と進入順位の調整を行います。飛行場管制業務が「1本の滑走路をどう使わせるか」を扱うのに対して、進入管制業務は「滑走路にたどり着くまでの空の交通整理」を扱っている、とイメージするとわかりやすいと思います。

📝

進入管制業務を行うのは、必ずターミナル管制所とは限らない
ACC(管制区管制所)が進入管制業務を担当する場合もあります。

ターミナル・レーダー管制業務との関係

進入管制業務のうち、レーダーを使って行うものを特にターミナル・レーダー管制業務と呼びます。

進入管制区は空域が広いため、管制官が目視だけで機体の位置関係を把握するのは困難です。レーダーがなければ、パイロットからの位置通報と時間をもとに、機体同士の間隔を大きめに取って安全を確保するしかありません。レーダーで各機の位置がリアルタイムにわかれば、その分だけ間隔を詰めることができ、より効率的に機体を捌けます。

両者は実際の運用では密接に組み合わされています。ただし、正式な管制業務の区分としては別々に扱われており、同義ではありません。

アプローチとデパーチャーの意味

ターミナル・レーダー管制業務は、扱う機体によってさらに役割が分かれています。

呼称 対象 主な業務
デパーチャー(Departure) 出発機 方向別に誘導し、他機との間隔を保ちながら上昇させる
アプローチ(Approach) 到着機 経路上の位置を監視し、進入順位を決めて並べる

無線通信の基礎で見た「デパーチャー」「アプローチ」という呼称は、この役割分担がそのまま交信相手の呼び名になったものです。前回の記事でも触れた通り、空港によってはこの2つが同じ管制席にまとまっていて、単に「アプローチ」とだけ呼ばれていることもあります。

5. 航空路管制業務

航空路管制業務が対象にするのは、主として空港間を飛行する航空機です。巡航中だけでなく、巡航高度に向けた上昇や、到着に向けた降下の一部もここに含まれます。前回の記事で見た通り、担当するのは航空交通管制部(ACC)で、日本国内では東京・神戸・福岡の3箇所に置かれています。

巡航中の機体は、飛行場周辺や進入管制区にいる機体と比べて、スピードも速く、飛んでいる時間もずっと長くなります。そのぶん、進路や高度がずれたときに気づいて修正する余地も小さくなります。だからこそACCは、あらかじめ経路と高度を割り当てておくことで、離れた場所を飛ぶ機体同士でも衝突が起きないようにしています。

具体的には、次の3つが航空路管制業務の中身です。

  • 経路の指定:どのルートを飛ぶかを指示します。ベースになるのは、出発前に提出した飛行計画上の経路です。天候や混雑状況によっては、ACCの判断で別ルートに変更されることもあります
  • 高度の指示:どの高度を飛ぶかを指示します。上昇・降下のタイミングも含めて、他機との間隔をACCが調整します
  • 管制間隔の維持:前後・左右・上下のいずれかで、機体同士が一定以上近づかないようにします。間隔の具体的な基準は状況によって細かく定められていますが、ここでは「複数の軸で間隔を管理している」というイメージだけ持っておけば十分です

交信のイメージは、次のような形です。

交信例 内容
Climb and maintain FL350 上昇・巡航高度の指示
Turn left heading 270 経路の一時的な変更指示
Direct XYZ, when able 直行ルートへの変更許可
Traffic, 12 o'clock, 10 miles, opposite direction 他機の位置に関する情報提供

飛行場管制業務や進入管制業務が「空港の近くで密集する機体を捌く」業務だったのに対して、航空路管制業務は「広い空域に散らばった機体を、長い時間軸で管理し続ける」業務、という違いがあります。

6. 補足:着陸誘導管制業務

管制業務の5区分のうち、最後の1つが着陸誘導管制業務です。担当するのは着陸誘導管制所で、無線の呼出符号にはGCA(Ground Controlled Approach)が使われます。

GCAは、空港監視レーダー(ASR)と精測進入レーダー(PAR)という2種類のレーダーを使って、着陸機に針路と高度を音声で指示し、地上から着陸まで誘導する業務です。ILSのような機上装置を必要としないため、装備を問わず誘導を受けられるという特徴があります。

現在の民間運航でこの業務を利用する機会は限られています。たとえば大阪国際空港のGCAは2007年に廃止されていますが、名古屋空港のGCAは今も運用されています。

7. タワーと話していれば、全部タワーの仕事なのか

ここまで、飛行場管制業務・進入管制業務・航空路管制業務の中身を、担当する空域ごとに順番に見てきました。この並びで読むと、「今どの管制機関と交信しているか」が、そのまま「どの管制業務を受けているか」と1対1で対応しているように見えるかもしれません。

実際には、そう単純に割り切れない場面があります。SVFR(特別有視界飛行方式)の許可は、その代表例です。

航空法第94条では、IMC(計器気象状態)では原則としてIFRによる飛行が必要と定められています。ただし、国土交通大臣の許可を受けた場合などには例外が認められています。ここでは、そのうち管制圏内で行われるSVFRを例に見てみます。VFR機であっても、視程などの条件を満たし機長から要求があれば、管制圏内に限って特別にVFRでの飛行が許可されることがあります。

管制圏内の話なので、この許可もタワー、つまり飛行場管制業務から出ていると考えたくなります。ですが、SVFRの許可を出しているのは、その空域で進入管制業務を行っている機関(ターミナル管制所やACC)です。飛行場管制業務を行っているタワーは、この許可を出していません。

つまり、管制圏の中にいるからといって、そこで行われるすべての許可・指示が飛行場管制業務によるものとは限らない、ということです。「どこにいるか」と「その内容がどの管制業務として処理されているか」は、必ずしも同じではありません。

📝

空域・管制機関・管制業務は区別して考える
「管制圏にいる」という空域の話、「タワーと話している」という管制機関の話、「離着陸の許可を受けている」という管制業務の話は、それぞれ別の切り口で決まっています。多くの場面ではこの3つがきれいに重なりますが、SVFRのように重ならない場面もある、と知っておくと交信の理解が一段深まります。

まとめ

  • 管制業務は、正式には飛行場管制業務・進入管制業務・ターミナル・レーダー管制業務・着陸誘導管制業務・航空路管制業務の5つに区分される
  • 同じ管制業務でも、それを担当する機関は空港や状況によって一つとは限らない
  • 「今どの管制機関と話しているか」と「その内容がどの管制業務として処理されているか」は、区別して考える必要がある

前回の記事(管制機関の種類)と合わせると、次のように整理できます。

管制業務 主な担当機関 対象になる機体
飛行場管制業務 飛行場管制所(飛行場管制席・地上管制席など) 管制圏内で離着陸・地上走行する機体
進入管制業務 ターミナル管制所、または管制区管制所(ACC) 進入管制区の出発機・到着機
ターミナル・レーダー管制業務 ターミナル管制所 レーダーで捉えられる出発機・到着機
着陸誘導管制業務 着陸誘導管制所 最終進入中の1機
航空路管制業務 管制区管制所(ACC) 空港間を飛行する機体

空域・管制機関・管制業務の3つを別の切り口として意識しておくと、無線から聞こえてくる一言一言の意味が、より立体的に見えてくるはずです。